物語とか書いてみる ID:EuTDqe7L

1以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2017/01/06(金) 17:32:37.29 ID:EuTDqe7L

書き始める前にちょっと断っておくことがある
まず、俺の学生時代は悲惨なものだった
彼女はもちろん友達だっていたことはなかった
学校ではいつもひとりだった
ひとりで休み時間を過ごし、ひとりで教室を移動し、ひとりで昼食を食べた
部活も早々に辞めてしまったから、放課後になるとなにもしないでまっすぐ家に帰った
だが家にいたってすることなんか何もなかったんだ

時間は経ち、惨めに孤独と戦っていた俺も、いつの間にかいい年をしたおっさんになった
そして最近、あの頃の自分を振り替えるにつけ、俺自身にどこか改善の余地があったのではないか、そうすればもう少し違った学生時代を送ることになったのではないだろうかと考えるようになった
今回はそんな俺の妄想を垂れ流しにするつもりだ
どんな内容になるかは俺自身まだわからない
とつぜん主人公が超能力に目覚め、異能バトルが展開されるかもしれない
あるいは主人公そっちのけで、ただただ俺の愚痴が書き連ねられ、悲壮感溢れる文章になるかもわからない
はたまた途中で妄想が底を尽き、中途半端なところで投げ出す可能性だって充分ある
そもそも俺の書く文章が最低限の水準に達するかどうかすら自信をもって言うことはできない
上記を含め、この物語がいかなる結末を迎えようとも、見苦しいものになるであろうことは重々承知している

そういうわけだから、俺はお前らに、この物語をどうしても読めと無理に勧めるつもりは毛頭ない
だが、これから何日かにわたってこの物語を書いていくなかで、図らずもこのスレがお前らの目に入ることがあるかもしれない
もしもその時に暇であるなら、あるいはこのスレに興味を持っていただけたなら、どうか温かい目で読んでいただきたい

それではそろそろ始めるとしよう
物語の表題は以下のようにする

「女子高生と遊園地デートとかしてみたかったよおおおおおおおおおおん!!」

4以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2017/01/06(金) 17:41:13.06 ID:EuTDqe7L

 部屋のベッドに腰かけて雑誌を眺めていると、外で子供たちの騒ぐ声がした。 窓から通りを見下ろすと、小学生の男の子が5、6人、楽しそうな声をあげて通り過ぎていった。ぽかぽかとした陽気の中、小学生たちは我先にと歩道を進んでいく。バットやらグローブやら持っているから、これから近所の公園で遊ぶのだろう。俺にもあんな無邪気な時代があったのだと、そう遠くない昔を思い出す。歩道には一定の間隔でクスノキが植えてあり、走りゆく小学生たちをちらちらと隠す。クスノキの葉は青々と生い茂っていて、その中にちらほらと赤い新芽が見える。春の間に出揃ったこれらの芽もこれから徐々に小さく花開くことだろう。

5以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2017/01/06(金) 18:02:06.90 ID:EuTDqe7L

 太陽の陽射しのおかげで部屋は明かりを点けなくても十分に明るい。小学生たちの声が聞こえなくなると、手元の雑誌に目を戻した。市内にある遊園地、ネプランドを特集した雑誌である。開いたページでは人気アトラクションの1つ、「NEP COASTER」が紹介されている。写真には、桃色の車体のジェットコースターがくねくねと曲がったレールの上を走っている様子が写されている。この雑誌は今週の月曜日に、帰り道の途中にある本屋で買ったものだ。これまで何度も読んだので全体的に少しよれている。

 子供の頃は父と母の3人でよくこの遊園地に遊びに行った。ぺらぺらと雑誌のページをめくっていると、当時の様子が思い出される。当時は無かったアトラクションもあるが、そのまま残っているものもあるようだ。あの頃の自分は無邪気だった。マスコットの着ぐるみに話しかけ、メリーゴーランドに揺られてはしゃぎ、身長制限に引っ掛かっているにもかかわらず、ジェットコースターに乗りたいと駄々をこねた。良い時代だったなと軽く息をつく。

 ページをめくるのをやめ、雑誌を脇に置いて後ろに倒れこんだ。両手を頭の後ろで組んで窓の外を見ると、雲ひとつない青空が見えた。快晴。まさに絶好のお出掛け日和といったところだ。しかし気分はいっこうに優れない。これから遊園地に行って遊ぶ。子供時代であれば、今ごろわくわくして落ち着かないことだろう。だが事情が事情だ。これから起こることは、17年間生きてきた中でもトップクラスの重大な案件だった。部屋の天井に目をやって、自分がこんな事態に陥った経緯に思いを馳せた。あれは先週の金曜日だった。

7以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2017/01/06(金) 18:09:22.98 ID:EuTDqe7L

 村岡、山下、根岸の3人は俺が学校でよくつるむ男子だ。彼らとは休み時間はもちろん体育や放課後にいたるまで、高校生活のほとんどを一緒に過ごしている。その日の昼休みも、俺は彼ら3人とトランプをして過ごしていた。ごく一般的な大富豪だったが、ゲームを進めるうちに、大富豪が大貧民に何か命令をするというルールが設けられた。ルールの追加によってゲームはさらに盛り上がり、勝った負けた、あれをやれこれを買って来いと遊んでいた。

 何回目かのゲームで大富豪が山下、富豪が村岡、貧民が俺、大貧民が根岸となった。さあ山下はどんな命令をするだろうと待っていると、山下は少し考えた後、後生大事にしている黒縁の眼鏡をくいと上げ、俺に

「根久夫、お前最近成田さんとどうなの」と聞いてきた。

 成田双葉。同じクラスの女子だ。突然の話題にどぎまぎしつつ

「どうって?」と聞き返すと山下は

「だからほら、一緒に遊びに行ったりとかしてないのかよ」と言って、きらりと黒縁眼鏡を意地悪く光らせた。

「遊びにって、なんでそういうことになるんだよ」

「なんだ、進歩のないやつだな。ようやく2人で会話してる姿を見るようになったと思ったらこれだ。お前はほんと奥手だな。どれ、俺がひとつ手を貸してやろう」

 山下はそう言うと根岸を見てこう言った。

「成田さんに、根久夫が来週の日曜日一緒にネプランドに行きませんかって言ってたって伝えて」

8以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2017/01/06(金) 18:35:57.38 ID:EuTDqe7L

 普段はのそのそと動く根岸は、山下のその言葉を聞いた途端にいきいきとした表情になり、「合点承知!」と勢いよく席を立って、教室の前の方で友人と談笑している成田の下へと小走りで向かった。山下の発言と、根岸のまるで別人のような挙動に一瞬呆気にとられらたものの、俺はすぐさま根岸を追いかけようとした。「お、おい!」

 根岸はすでに10歩ほど先におり、「おーい、成田さーん」と手を挙げている。成田が振り向くのと俺が駆け出すのがほとんど同時だった。

「さっき根久夫が言ってたんだけど、来週の日曜日……」

「ちょっと待てぇ!」

 寸でのところで後ろから根岸の口を右手で塞ぎ、そのままグイッと引き寄せる。危ないところだった。もがもが言う根岸を席に連れ戻そうと引きずりながら、「なんでもない、なんでもないから」と成田に向かってぶんぶんと左手を振った。彼女は不思議そうな表情でこちらを見ている。その視線に耐えられず、急いで席に戻ろうとしたのだが、根岸は山下からの命令を遂行しようと激しく抵抗しだした。結構な力である。このまま抑え続けるのは無理そうだ、ひとまずこいつには眠ってもらおうとヘッドロックを仕掛けたところでチャイムが鳴り、先生が教室に入ってきた。

9以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2017/01/06(金) 18:58:48.21 ID:EuTDqe7L

 5時間目は数学だった。4月の始めに、1年生で勉強したことが定着しているか確認するため行われたテストが返却された。悪くはないが決して良いと言える点数でもなかった。クラス全員分のテストを返却し終えると、先生は問題の解説を始めた。

 テストの最初の方はわりとよくできていたから、始めのうち、先生の解説はほとんど聞いていなかった。なんとなくぼんやりとしながら、ちらりと左の方に目をやると、少し離れた席で成田が机に両肘をつき、頭を抱えて座っていた。どうしたんだろう、もしかしてテストの点数が良くなかったのかとしばらく見ていると、彼女の頭ががくっと大きく下に動いた。同時に体をびくりとさせ、一瞬辺りを見回す。それから彼女は何事もなかったかのように正面に向き直った。どうやら居眠りしていたらしい。

 成田とは1年生のときも同じクラスだった。その姿を目で追うようになってもう1年近く経つ。会話をするようになったのは1年生の秋頃だった。ふとさきほどの山下の話を思い出す。もしも成田と2人で出掛けることになったらどうなるだろうか。これまでも何度か想像したことがあった。休日に出歩く2人。どんな会話をするだろう。学校でするようなどうでもいい会話ばかりになる気がする。歩くときの距離感は。近すぎても離れても不自然かもしれない。行き先はどこがいいだろう。ネプランド。2人で遊ぶのにはいいかもしれない。

 2人でネプランドで遊ぶ様子をあれこれと妄想していると、先生の「じゃあ次。大問の4だけど」という声が聞こえた。ここからは授業に集中する必要がある。めくるめく妄想を振り払い、赤ペンを握り直すと意識を先生と黒板に向けた。

11以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2017/01/06(金) 19:37:49.91 ID:EuTDqe7L

 数学の授業が終わると、次は音楽の授業だ。したがって音楽室に移動しなければならない。6時間目ともなると少し疲れが溜まっている。のろのろと数学のテストを鞄にしまい、代わりに音楽の教科書を取り出そうとがさごそとやっているうちに、クラスメイトの大半はもう教室を出てしまっていた。教室の入り口の方から「根久夫、まだか?」と声がして目を向けると山下たちが待っていた。

「悪い悪い。先に行っててくれ」

 と言うと「わかった」とだけ答えて山下たちも教室から出ていった。

 いくら探しても音楽の教科書が見当たらない。どこに置いただろうかと考えていると、前回の授業の後、ロッカーにしまったことを思い出した。席を離れて自分のロッカーの中を確認すると、やはりあった。よかった、と息をついてから教室を見渡すと、すでに数人しか残っていない。遅れるのはごめんだと急いで教室を出ると、廊下を行き交う生徒たちの中、2つ隣の教室から成田が出てくるのが見えた。少し足を早めて成田に並び

「よう」と声をかけると、成田は

「あれ、須藤だ。なにしてんの?遅れるよ?」と言った。自分だって遅れそうなのに能天気なことだ。

「まぁ少しくらい大丈夫だろ」と歩調を緩めて成田に合わせ、音楽室へ向かうことにした。

12以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2017/01/06(金) 19:54:32.03 ID:EuTDqe7L

「ていうか1人?山下くんたちは?」歩いていると成田が訊ねた。

「俺が準備に手間取ったから先に行かせた」

「ふーん」

「成田は何してたの」

 「教科書忘れたから別のクラスのえりちゃんに借りてたの。クラスが離れて残念だったけど、こういうときは助かるなぁ。久しぶりに会ったから、話がはずんじゃってこんな時間になっちゃった」

 なにやらご機嫌だ。

「それにしても須藤たちはいいよね。去年も同じクラスだったんでしょ?」

「正確には中2の頃から同じだな」

「そんなに長いんだ。仲良さそうだしね」

 そう言うと、成田は少し考えるような間を開けてから「でもさあ」と続けた。少し明るい口調だった。

「仲が良すぎるのもどうかと思うよ?須藤、昼休みに根岸くんに抱きついてたでしょ」

「は?」なに言ってんだこいつ。

 思わず成田を見ると、やれやれと大袈裟に頭を振りながら「まさか須藤にあんな趣味があったとはねぇ」と言っていた。

「いやいや違う違う。あれは罰ゲームの成り行きでしかたなかったんだ。好きであんなことしてたんじゃない。」と急いで答えると

「罰ゲーム?あれが?」

 と明らかにおもしろがっている表情をこちらに向けた。「どんな内容よ。言ってみなさい」

 どうやら俺を笑い飛ばす準備は万端らしい。こうなるとやっかいだ。答えによっては、今後これをネタにからかわれる可能性がある。しかし本当のことを言うわけにもいかないので、とりあえずはぐらかすことにした。

13以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2017/01/06(金) 20:06:23.70 ID:EuTDqe7L

「別になんだっていいだろ。それよりさ……」

 それより……なんだろう。廊下の前の方に同じく音楽室へ向かうクラスメイトが見えた。必死に頭を働かせていると、ふいに、数学の授業中に巡らせた妄想が頭をよぎった。その瞬間、胸がぐっと詰まり目の前の景色が妙にはっきりと見えた。

「来週の日曜ひま?」

「え、うん。ひまかな。みんな部活で忙しいみたいだし」

「じゃあさ、ネプランド行かね?」

 はっと我に帰った。今なにかとんでもないことを言ってしまった気がする。恐る恐る成田の方に顔を向けると、成田は何も言わずきょとんとこちらを見ていた。

 激しい後悔を予感しながら、それでも次に言うべき言葉が浮かばず黙っていると、成田の表情がぱっと変わり

「いいね、ネプランド!私しばらく行ってないの!行こう行こう!」と目をきらきらさせて言った。

 なにがなんだかわからず「お、おう……」などとごもごも言っていると、成田はひょいと廊下の先の方を見て「あ、かほちゃんたちだ」と先に歩き出した。そうかと思うとくるりとこちらを振り返り

「じゃ、またあとでね」と言って行ってしまった。

 残された俺は呆然とその後ろ姿を見送ることしかできなかった。

14以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2017/01/06(金) 20:15:57.89 ID:EuTDqe7L

 はじめのうち、成田が本気でネプランドに行くつもりなのだとは思っていなかった。どうせ来週には「ごめん、やっぱ用事が入った」とか言ってくるに違いないと高をくくっていた。

 だから、次の週の月曜日に学校で会った際、開口一番「ねえねえ、今度の日曜日は2時にネプランドの入り口で待ち合わせってことでいい?」と言ってきたときにはうろたえてしまった。

「え?ほんとに行くの?」

「は?須藤が言ったんでしょ。ネプランドなんていつぶりだろう。楽しみだなぁ」

 こいつ本気だったのかと、その時になって初めて事の重大さに気づいた。どうしようどうしようとその日一日頭を悩ませた結果、とりあえず情報収集しなければと、帰りに書店に寄ってネプランドの雑誌を買ったのだった。

 そして今日がその日曜日である。成田と出かけるということがこんなに気が重くするとは思わなかった。午後いっぱい2人で過ごすなんて、そんなに間がもつわけない。全く嫌な予感しかしない。あの時の自分はどこかおかしかったのだ。恨めしげに部屋の天井を見つめながら後悔に後悔を重ねてそう思った。

 それにしても成田が誘いを承諾してくれるとは思わなかった。激しく断られて自分は自己嫌悪の渦に飲まれるのだと覚悟したのに。あの時の彼女の表情の変化はまさに劇的だった。呆けた顔だったのが、眉をくいと持ち上げ、口をぱっと開けて笑顔になる。いかにも楽しみ、といったあの顔を思い出す度に息が詰まった。

 壁の時計に目をやると、そろそろ昼食の時間である。俺はゆっくりと立ち上がり、背伸びをしてから部屋を出た。

16以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2017/01/06(金) 20:25:36.87 ID:EuTDqe7L

 昼食を終えると、少し早めに家を出た。外はかなり明るいが気温はそれほど高くない。どうやら過ごしやすい午後になりそうだ。大きく息を吸って吐き出す。まあ遊園地で遊ぶだけだ。案外なんとかなるんじゃないだろうか。

 自転車に跨がり、最寄り駅を目指す。ふがふが鼻歌を歌いながらペダルを漕いでいるうちに駅に着いた。ネプランドまでは駅5つ分離れている。切符を買い、改札を通ってホームに行くと、ほどなくして電車が来た。立っている乗客もちらほらいるが、座る席が無いというほどでもないようだ。3両目の前の方に乗り、反対側の入り口の脇に立って車内を見渡すと、座席の前に、こちら側の車窓に体を向けて立っているヒールを履いた女性がいた。携帯をいじっている。特にすることもないので、午前中に見ていたネプランドの雑誌の記事をあれこれ思い出していると、電車が動き出した。その時、ヒールを履いた女性がよろめいてその片足が床から離れた。電車はゆっくり速度を上げていく。みるみるうちに女性はバランスを崩し、ついには車両の後方に向かってけんけんし出した。とっとっとっ、とヒールが床に当たる音が車内に響き渡る。女性はばたばたと両手を振っていたが、車両の中ほどまで行ったところでようやくその手が手すりをつかんだ。しかし、体勢を取り戻したものの、女性はなんだか妙に縮こまってしまい、その後一度も顔を上げなかった。周りの乗客はちらちらとその女性を度々盗み見た。

18以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2017/01/06(金) 20:35:13.33 ID:EuTDqe7L

 目的の駅が近づくにつれ、車内は段々と混みだした。これからネプランドへ向かう人も少なくないのだろう。ごちゃこちゃとした車内から目を逸らすように、俺は外の景色を眺めていた。街の景色は次々と変わり、民家だけでなくコンビニや小型のスーパーも目立つようになった。俺は頭の中で、その建物たちの屋根を飛び移る忍者を想像して遊んでいた。

 遊びに没頭していた俺の耳に、「まもなくネプランド前です。忘れ物のございませんようご注意ください」というアナウンスが聞こえてきた。はっとして忍者の残像をかき消すと、電車はすでに目的の駅のすぐ近くまで来ていた。駅から少し離れたところにはネプランドが見えていた。電車から降りて、同じくネプランドへ向かう人たちの群れについて歩いていくと、5分ほどで着いた。

 久々に来たネプランドは、ぱっと見たところどこも変わっていないようだった。特にこの入場ゲート。2つのゲートが並んでいて、どことなくこぢんまりとした印象を与える。そこまで人口の多くないこの街に相応の遊園地、といったところだ。この入場ゲートの前で成田と待ち合わせることになっている。しかし、辺りを見回しても成田の姿は見当たらない。どうやらまだ来ていないようだ。時計を見ると、待ち合わせの時間まではあと10分ある。きょろきょろそわそわして待っていると、人混みの中からこちらへ向かってぱたぱたと小走りにやってくる成田の姿が見えた。

19以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2017/01/06(金) 20:44:21.98 ID:EuTDqe7L

「ごめんごめん。待った?」

「いや」

 つい返事がおざなりになる。学校の外で彼女と会うのは今日が初めてだった。走ってきたためか少し息が乱れているが、彼女は微笑んでいた。その表情に思わず気を取られていた。

「そっか。いやぁ今日は晴れて良かったね。最高のネプランド日和だよ」

「そうだな」と答えたものの後が続かない。何か言わなければと言葉を捻り出す。「昨日うちの前で変なおっさんが晴れ乞いの儀式をしてたから、多分そのおかげで晴れたんだろ」

「は。意味わかんない。なに言ってんの?」怪訝な顔で返された。しかし、若干怖いその顔もすぐさま笑顔に変わり、「さ、早く行こ」と入場口の方へと足を向けた。

 入場券を買って園内に入ると、休日だけあってネプランドはそこそこ混んでいた。子連れや学生の集団やらが右へ左へ流れていく。横では成田が「結構人いるねぇ」ときょろきょろしている。俺は入り口でもらった園内の案内図を広げていた。ネプランドは特別広いわけではないが、それでも半日で全てのアトラクションを回ることはできないだろう。

「とりあえずどうしようか」と聞くと

「ジェットコースター!ジェットコースターに乗ろう!景気付けに!」と勢いよく彼女は答えた。

 ネプランドに来れば誰だってテンションは上がる。景気付けもなにも必要ないだろと思いながら案内図を見ると、ジェットコースターはここから東の方にある。顔を上げて見回すと、ジェットコースターのレールのようなものが見える。「じゃああっちだな」と歩き出した。

20以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2017/01/06(金) 20:55:44.23 ID:EuTDqe7L

 ジェットコースターはネプランドの名物アトラクションであり、それなりに大きい。高さは40m、乗車時間は2分に及ぶ。最高時速は80kmだとあの雑誌に書いてあった。ジェットコースターに乗ったことのない俺にはちょっと想像できない。

「ネプランドに来たらジェットコースターだよね」隣で成田が言った。

「結構有名だよな、ここのジェットコースター」

「うん。他所の遊園地のより好きだな、私。速くて、ぐわんぐわん揺られて、ぐるんて回るの」くるっと人差し指を回して成田が言う。

「そうなのか。俺乗ったことないんだよな、ジェットコースター」

「えっ!そうなの?なんで?」

「なんでって……。遊園地に通ったのなんて小さい頃の話だし、その頃は背も小さくて乗れなかったんだよ」

「へぇ、そうなの。じゃあ初ジェットコースターがネプランドなんだ。かわいそう」

「なんだよ、かわいそうって」

「だって、ネプランドのジェットコースター怖いよ?それで有名なんだから。須藤、泣いちゃうんじゃない?」

「泣かねぇわ。泣くわけねぇだろ、あんなんで」

「どうだか」

21以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2017/01/06(金) 21:06:02.45 ID:EuTDqe7L

 そんなやりとりをしているうちに木造の建物の前に着いた。山奥に建つロッジに似ている。雪が積もっているかのように真っ白な三角屋根には煙突が付いており、2階の外壁には白い字で「NEP COASTER」と書かれたピンク色の看板が掲げてある。建物の横には背の高い松の木と雪だるまの置物が立っている。入り口の前には五分刈りの青年が立っていて、左のこぶしを挙げながら「NEP COASTERへようこそ!」と言っている。恐らくスタッフだろう。ロッジのような建物のすぐ後ろにはもうひとつ建物が建っている。そちらは4階建てだ。ジェットコースターのレールはその4階から延びていた。乗場はそこにあるらしい。ロッジのような建物とは2階部分が通路でつながっていた。遠くの方からはジェットコースターが走る「ゴォー」という音や乗客の悲鳴が聞こえていた。

 入り口の前まで行くと、スタッフに「現在30分待ちです。中の階段をお進みください」と案内された。

「30分待ちだってよ」と言うと成田は

「まぁ日曜だしね」とはるか頭上のレールを見つめながら答えた。

 ロッジのような建物に入ると、左の方に階段がある。上の階からは人の話し声が聞こえる。部屋の中を進んでいるうちにふとあることを思い出した。

「この建物さ、兼六園をモチーフにして作られたらしいよ」午前中に読んだ雑誌からの情報だ。

「兼六園?」

「そう。ここの創設者が兼六園に行ったときにすごい癒されたから、遊園地にも建てたようと思ったらしい」

「へぇそうなんだ。確かに落ち着く建物だけど」

「ちょっと遊園地には合わないよな。しかもよりによってジェットコースターに作るってどうかと思う」

「ていうか兼六園にこんな建物あるのかな?なんか煙突付いてたけど」

 確かに。金沢にある兼六園は江戸時代に造られた庭園だ。その頃に煙突などあったのだろうか。

「さあ。行ったことないからわかんねぇ」


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