「ていうか1人?山下くんたちは?」歩いていると成田が訊ねた。
「俺が準備に手間取ったから先に行かせた」
「ふーん」
「成田は何してたの」
「教科書忘れたから別のクラスのえりちゃんに借りてたの。クラスが離れて残念だったけど、こういうときは助かるなぁ。久しぶりに会ったから、話がはずんじゃってこんな時間になっちゃった」
なにやらご機嫌だ。
「それにしても須藤たちはいいよね。去年も同じクラスだったんでしょ?」
「正確には中2の頃から同じだな」
「そんなに長いんだ。仲良さそうだしね」
そう言うと、成田は少し考えるような間を開けてから「でもさあ」と続けた。少し明るい口調だった。
「仲が良すぎるのもどうかと思うよ?須藤、昼休みに根岸くんに抱きついてたでしょ」
「は?」なに言ってんだこいつ。
思わず成田を見ると、やれやれと大袈裟に頭を振りながら「まさか須藤にあんな趣味があったとはねぇ」と言っていた。
「いやいや違う違う。あれは罰ゲームの成り行きでしかたなかったんだ。好きであんなことしてたんじゃない。」と急いで答えると
「罰ゲーム?あれが?」
と明らかにおもしろがっている表情をこちらに向けた。「どんな内容よ。言ってみなさい」
どうやら俺を笑い飛ばす準備は万端らしい。こうなるとやっかいだ。答えによっては、今後これをネタにからかわれる可能性がある。しかし本当のことを言うわけにもいかないので、とりあえずはぐらかすことにした。