数学の授業が終わると、次は音楽の授業だ。したがって音楽室に移動しなければならない。6時間目ともなると少し疲れが溜まっている。のろのろと数学のテストを鞄にしまい、代わりに音楽の教科書を取り出そうとがさごそとやっているうちに、クラスメイトの大半はもう教室を出てしまっていた。教室の入り口の方から「根久夫、まだか?」と声がして目を向けると山下たちが待っていた。
「悪い悪い。先に行っててくれ」
と言うと「わかった」とだけ答えて山下たちも教室から出ていった。
いくら探しても音楽の教科書が見当たらない。どこに置いただろうかと考えていると、前回の授業の後、ロッカーにしまったことを思い出した。席を離れて自分のロッカーの中を確認すると、やはりあった。よかった、と息をついてから教室を見渡すと、すでに数人しか残っていない。遅れるのはごめんだと急いで教室を出ると、廊下を行き交う生徒たちの中、2つ隣の教室から成田が出てくるのが見えた。少し足を早めて成田に並び
「よう」と声をかけると、成田は
「あれ、須藤だ。なにしてんの?遅れるよ?」と言った。自分だって遅れそうなのに能天気なことだ。
「まぁ少しくらい大丈夫だろ」と歩調を緩めて成田に合わせ、音楽室へ向かうことにした。