「別になんだっていいだろ。それよりさ……」
それより……なんだろう。廊下の前の方に同じく音楽室へ向かうクラスメイトが見えた。必死に頭を働かせていると、ふいに、数学の授業中に巡らせた妄想が頭をよぎった。その瞬間、胸がぐっと詰まり目の前の景色が妙にはっきりと見えた。
「来週の日曜ひま?」
「え、うん。ひまかな。みんな部活で忙しいみたいだし」
「じゃあさ、ネプランド行かね?」
はっと我に帰った。今なにかとんでもないことを言ってしまった気がする。恐る恐る成田の方に顔を向けると、成田は何も言わずきょとんとこちらを見ていた。
激しい後悔を予感しながら、それでも次に言うべき言葉が浮かばず黙っていると、成田の表情がぱっと変わり
「いいね、ネプランド!私しばらく行ってないの!行こう行こう!」と目をきらきらさせて言った。
なにがなんだかわからず「お、おう……」などとごもごも言っていると、成田はひょいと廊下の先の方を見て「あ、かほちゃんたちだ」と先に歩き出した。そうかと思うとくるりとこちらを振り返り
「じゃ、またあとでね」と言って行ってしまった。
残された俺は呆然とその後ろ姿を見送ることしかできなかった。