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|\(^O^)/| < おはよー
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次の日。
ぼんやりとした微睡みを、看護師の声がかき消す。
ナース「ほーら、いつまで寝てるの?娘ちゃん」
そう言うや否や、少女を包んでいた毛布を無情にも剥ぎ取る。
ナース「はい、検温しますよ。腋に挟んでね」
娘「......はぁい」スッ
しぶしぶ頷いて体温計を挟みこむ。
先っぽの金属部分が、脇の下を一瞬ヒヤリとさせる。
ナース「もう、どうしたの?あんまり眠れなかったのかしら」
娘「......は、はい」
ナース「......娘ちゃん」スッ
看護師は優しく少女の肩を撫で、
ナース「......大丈夫よ。すぐよくなる。......きっとよ」
体温計が音をたてるまで、そう優しく励ました。
昨日、夜遅くまで甘美な美食の旅に出ていたから寝不足であるのだとは、言えるはずがなかった。
ナース「......ん?」
ふいに、看護師はテーブルの上のメモに気付いた。
ナース「なあに?これ......私は背後から刺され......」
娘「わ、わわわ、な、何でもないんです!」バッ
ナース「......娘ちゃん、不安なのは分かるわ。でも、気を強く持たなきゃだめよ?」
娘「は、はい......大丈夫です!」
ナース「......」
ナース「......そ!なら良かった。それじゃあ、私次の患者さんのとこに行くわね」
娘「はい。......あ、あのっ......」
ナース「ん?」
娘「ありがとうございます。......その、色々親切にしていただいて」
ナース「ああ、......ふふ。どういたしまして。......それじゃあまたね」
娘「はい!」
看護師が出ていったあと、慌ててメモを丸めて捨てる。
時計を見ると6時ちょっとすぎ。朝食の八時までまだ時間がある。
娘「もう少し、寝ちゃおっと......」
少女はまた、微睡みの中へと沈んでいった。
次に目を開けると、もう朝食が配られていた。
まだ寝足りないという目をこすりながら、箸を手に取る。
今日の朝食は減塩された焼き鮭に、卵焼き、それに漬け物と白米、味噌汁。
なかなかなラインナップだ。
娘「頂きます」
まずは味噌汁を啜る。
いまいち味気ない。
次に卵焼き。
いまいち味気ない。
鮭を小さくぼくし、ご飯にのせて口に運ぶ。
......いまいち味気ない。
娘「......うーん」モグモグ
どうも、昨日のあの"食事"は刺激的で、魅力的すぎたらしい。
どのメニューも病院食用に減塩されているとはいえ、あまりに味気なくとても食べ続けられるものではなかった。
娘「......もういいや。ご馳走さま」
そう言って箸を置く。
結局、朝食はほとんど食べないまま回収されていった。
ナース「......食欲なかった?」
回収時、看護師はまた心配そうな顔をした。
娘「うん......ちょっと......」
ナース「......もう、二度寝なんてするから。ちゃんと食べないと元気になれないわよ?」
娘「......はい。ごめんなさい」
ナース「......もう。......あ、そういえば、昨日貸した本はもう読んだ?」
娘「はい。えっと......グルメ小説の方を読みました」
ナース「あら、意外だわ。娘ちゃんくらいの歳なら、迷わず恋愛小説の方を読むと思ってたのに」
娘「あはは......私、恋愛小説って読んだこと無くて......」
少女は少し照れ臭そうにそう返す。
ナース「そうなんだ。......私が娘ちゃんくらいの時はそう言うのすっごく好きだったのに」
そう言って、看護師はナイトテーブルの上に置いてあった、自分が昨日少女に貸した恋愛小説を手に取る。
ナース「この本はとっても好きな本なの。是非娘ちゃんにも読んでほしいな」
娘「......どんな話なんですか?」
ナース「この本はね、とある村で、傘屋さんをしてる女の子のお話なの」
娘「傘屋さん?」
ナース「そう。それで、ある大雨の日にその傘屋に男の子が来てね、恋に落ちるの」
娘「......なんか素敵」
ナース「でしょ?だからね、是非読んでみて」
娘「はい。きっと読みます」
ナース「うん。じゃあまたね」
看護師が出ていった後、少女は先程の本を手に取った。
娘「タイトルは......雨音の下で......か」
娘「看護婦さんがあれだけ言ってたんだし、ちょっとだけ読んでみようかな」
......
......ここ数日、ちっとも雨が降らない。地面はカピカピに干上がり、私は商売あがったり。傘屋なんて今時どうかしてるなんて事は、自分でも分かってる。
それでも、おばーちゃんのおばーちゃんの、そのまたおばーちゃんの頃からずっと続いてるこのお店を畳むことなんて、私にはできなかったわ。傘は、大昔からあって殆ど形を変えずに残っている数少ない道具の一つで、
私はそんな素敵な知恵の結晶達と囲まれて日々を過ごしているの。それは結構幸せな事だって、私は思うようにしてる。
だいいち、近所にすんでるあとソバカスだらけの......
......
娘「祖母の祖母の祖母の......って、凄い老舗なんだなぁ......」
娘「結構面白いかも」
恋愛小説、と聞いてイメージしていたものよりはるかにお転婆な文体に困惑しつつも、じわじわとその世界観に魅せられていった。
サクサクと読み進めていくと、ついに後の恋人であろう男が登場する。
......
その日は、久々の雨で、私はウキウキしてた。でも、ちょっと降りすぎたわ。まるで今までの分も全部吐き出すみたいに。だからあんな奴と出会っちゃったのよ。
「やあ、タオルをありがとう。助かったよ。しかし、埃っぽいお店だね」
ずぶ濡れた猫みたいに震えてたからしょうがなく入れてあげてタオルまで貸したのに、失礼なやつったらありゃしなかったわ。
ちょっと鼻と背が高くて、それなりの見た目ではあったけど。最初はこんなやつもう絶対に関わりたくない。そう思ったわ。
......
娘「......ふふ、不器用だなぁ」クスッ
少女は、本の世界の女の子の可愛らしさに微笑んだ。
娘「......さあて、女の子とずぶ濡れ君はどうなるのかな......」
ワクワクしながら次へ次へとページを捲っていく。
途中、様々な場面や景色が少女の眼前に現れ、よりいっそう彼女を没頭させた。
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