新宿から中央本線に乗って西に向かう事2時間弱
山梨の笹子峠を越えて甲府盆地に入ってすぐに甲斐大和と言う駅がある
この駅のすぐ近くに諏訪神社というお社があるが地元の人が言うには
「祟るからむやみに近寄るな」との事
調べると国鉄時代に蒸気機関車の煙で枯れてしまった御神木があって
それがたまに祟るそうで伐採しようとした保線区職員が何人も死んだとか
そんな話を聞いた
そんな話を聞いた事も忘れたある早春の休日
直したばかりのトライク(3輪オートバイ)で颯爽と出かけるワシ
向かうは河口湖 お目当ては山梨名物のほうとう鍋
河口湖畔の老舗の店で旨い旨いと麺をすすりながら満足して店を出た
まだ日が高いからちょっと観光するかと思い樹海方面へ走ると・・・
見覚えのあるバス停と売店 どっかで見たなこの図柄
ああ思い出したここは「志願者」が樹海に入る入り口だ
旨いもの食ってテンションが上がったのか初めての土地に興味がわいたのか
駐車場にトライクを停めて躊躇なく突撃開始
今思うと吸い込まれるように遊歩道に入って行ったような気もするが
ともかく国内トップレベルの自殺の名所なのに足取り軽く入って行ったのは今思い出しても不思議
500mほど入って行ってなんの気なしに横道にそれる
横道とは言うが獣道みいな細道で人が歩いた形跡なんかない
取り憑かれたように小枝を掻き分けて行くと広さ12畳くらいの岩場に出る
まだ雪が残っていて岩の影や窪地にはゴミか何かだろうか
赤い布切れや白いビニールが半分雪に埋まっていた
ここで我に返って「あれなにやってんだ俺 帰ろう」と踵を返す
来た道を早足で戻り始めたのだがいくら歩いても元の遊歩道に出られない
仕方がないので木の隙間から差す日光と腕時計の時間で
方向の見当を付けながら足場の悪い岩場をいくつも横断する
だがいくら歩いても人の気配がしてこない
「やべぇ・・・ 引き込まれたかなこりゃ」そう思って焦り始めた
「焦ったら終わり」
「焦りは冷静な判断を妨げる」
そう言い聞かせて禁煙の国定公園内でタバコに火を付けた・・・
残雪で火を消してフィルターはポケットへ
CWニコル氏と開高健さんの対談で
「リンゴの皮は自然に還るから捨ててもOK でもビニールはNGね」
というカナダ国定公園内での一節を思い出して
「でもここはタバコの葉は自生してないから自然じゃないよなw」
と自分にツッコミを入れながら歩く
それから20分ほどで車の走行音が聞こえて来る
「あーやっと人のいる所まで来た」
と樹海から脱出 件の駐車場から1キロ弱西に外れた所に出た
それから道路を歩いて駐車場に到着
無事に帰路に付いた はずだった・・・
行きは大月市から国道20号を一宮まで走って御坂みちから河口湖へ向かったが
(道路が広くて走りやすい)帰りは距離の短い富士みち経由で大月へ
片道1車線の田舎道を快調に走っていると突然
バキッガリガリガリガリガリ・・・
斜めになった車体を押さえつけて縁石にタイヤをこすりながらようやく停まるトライク
車体後部を覗いて見たら左のサスペンションが折れてその勢いで右サスの付け根が曲がってた
とりあえずそのへんに落ちてた角材を噛ませて徐行で移動
富士急三つ峠駅近くのコンビニで針金とガムテープを買って応急処置
後続車に睨まれながら時速15キロ徐行でなんとか大月まで帰った
そんな事があって少したったある日
所長から異動の辞令が
「今度はどこに飛ばされるんです?」
そう聞く俺に所長は
「いや異動ってほどじゃないウチの分舎の笹子に移って欲しいんだ」
なんだ宿舎が変わるだけで所属は同じやんけ
家財道具と自前工具とバイクトライクの部品を積んで2時間で引っ越し終了
中央線笹子駅から徒歩3分(ただしイノシシ&クマのオプション付き)
の好物件に移動したところから本当の恐怖が始まるのだがその時は知るよしも無かった
ちなみにこの宿舎の場所は昔は国鉄の所有で
「中央線笹子駅構内脱線転覆事故」の犠牲者60人の安置所として使われたそうです
笹子の宿舎に着いて2週間
前回のリベンジを兼ねて再び河口湖へトライクを走らせる俺
破損箇所はカワサキ1000ccのバイク部品を流用して無事復活
一箇所だけ強化すると周りに負担が掛かって壊れるのはお約束なので
そのあたりもぬかりなく補強
よし真っ直ぐ走るぞコレ などとのんきな事を思いながら甲州街道を西へ
一宮で左折して再び御坂みちを快調に走る
前回と同じほうとう屋で同じほうとう鍋をペロリと完食
さて今回はどうしようかなぁ・・・
いややっぱやめとこう あそこは何かいる とおとなしく帰路へ
この日は何事もなく無事帰れたのだがその日の晩に恐ろしい目に・・・
夜勤が休みだったので早めに風呂に入って部屋に戻る
ああ疲れたでも修理前より調子いいしかえって良かった
などと思いながらベッドに横になる
深呼吸して目をつぶった直後・・・
???
何か来た!
ベッドの頭の方から人の気配
それも複数でものすごく嫌な感じのそれは幼稚園児くらいの子供が3人
見えないはずなのに雰囲気と言うか気配でそれが分かった
そして相手が子供なのに今まで感じた事のない恐怖感が俺の全身を包む
その子供たちがそれぞれ俺の頭と両肩を掴んで頭の方へまっすぐ引っ張りはじめた
身体は動かないが「中身」を掴まれて半分くらいまで引きずり出された時
俺の視点が天井に移って苦しそうにしてる俺と真っ黒い影みたいな子供が3人見えた
ヤバいこれは本当に持って行かれる と思った瞬間
いつもお参りしている地元の神社が頭に浮かぶ
「神さんなんとかしてくれ!コイツらシャレになんねぇよ!頼む!」
心の中でそう叫んだ瞬間俺の中身がゴム仕掛けのおもちゃのようにスポンと身体に戻る
あっけに取られていると子供たちの気配が消えていたが
肩と首の後にはまだ掴まれた感触がはっきり残っていた
「相当ヤバいもん連れて来たみたいだな・・・」
脂汗をかきながらその晩は一睡も出来なかった
「しかしなんでまたこのタイミングで?」
白み始めた東の空を眺めながら思った
樹海で自分の様子がおかしかったのは確かだが
あの窪地で見たゴミ(赤い布きれとか)の持ち主が憑いて来たなら
直後に来るはずだし もしやこの土地に何かあるのか?
そう思って「笹子 事故」で検索したらすぐに答えが出た
「こんなでかい事故があったのかよ・・・」
念の為地元出身の同僚に聞くと
「あーあの事故か地元じゃ有名だよ 笹子宿舎は元々国鉄の保線倉庫か
なんかの跡地で当時は死体安置所に使われたんだってさ なんか見たの?」
「・・・」
でもおかしい
その犠牲者なら引っ越し直後に出て来ていい筈だし何かが引っ掛かる
「そういや諏訪神社は行った? そういうの好きなら行って見れば?責任取らないけどw」
「どこそれ」
「甲斐大和の駅の終点方(甲府寄り)にあるよ まあよく調べてから行った方がいいな」
神社かぁ・・・ あ!
そう言えば引っ越しのときに大事な荷物開けるの忘れてた
急いで部屋に戻り梱包を解く
取り出したのは地元鹿島神宮の御札
毎年初詣の度に取り替えては目の届く所に吊るしてある
本来は神棚に納めるのが筋なのだが
「ヒキコモリの神様を引っ張り出すのに女神が裸相撲で気を引く」
なんて事する日本の神様達に丁寧過ぎる扱いもどうかと言う俺流の信仰スタイルで
夏は涼しく冬は暖かい所に飾って時々風呂上りのきれいな手で埃を払うと言う付き合い
参拝の時は
「まあ人気神社だし忙しいだろうから時間の空いてる時に適当にお願いしますわ」
と念じる始末だがこれまでもバイクやサーフィンで死にそうな事故を起こしても
軽傷で済んでるからご利益はあるのだろう
「神さんすまん息苦しかったろ ココはちょっと寒いけど空気は綺麗だからくつろいで」
などとつぶやきながら西日の当たらない壁にぶら下げる
それからも時々黒い何かが廊下の隅や
部屋の窓に見え隠れする事はあっても引かれる事は無くなった
だがコイツは俺を引き込む機会を伺っていただけだと後から知る・・・
御札を眺めながら
「神さん来年の初詣は賽銭はずむからホント頼むよ」
「死んでもそうだけど働けない身体になったら賽銭も出せんから」
なんて言いながら平穏な日々を過ごしていた
黒い影も見えなくなって来て
「やっぱり軍神タケミカヅチさんはご利益あるなぁ」
などと感謝していたがそれも長くは続かなかった
中身を引き抜かれそうになってから半年くらい経ったある夜
笹子駅から500mほど東京寄りの場所で作業していた時の事
俺は見張員として現場に立っていた
下り線の作業で終電通過後23時前後から翌5時の始発までの作業なのだが
上り線に深夜2時半に夜行の貨物が通過する
その通過列車が接近したらサイレンを鳴らして作業員を待避させる仕事
200mくらいの区間を2班に分けて現場の両端と中間
それと東京方800m地点に前方見張員の計4人の見張員が立つ
俺は1班と2班の間に立っていた
「1班は計8人・・・2班は計7人・・・ 列番88の貨物は2:14分通過か・・・」
メモを眺めながらなんとなく作業員の数を数える
昔やっていた海水浴場の監視員時代の癖でこういう時はつい人数を数えてしまう
1班は・・・あれ7人?
「1班中継どうぞ」
『はい どうした?』
「作業員1人いなくないですか?」
『あぁ小便だよ てかお前いちいち人数数えてんの?」
「ええまあ」
『そこまで気使わんでいいよ それより後20分で貨物来るぞ』
「はい了解」
でもなんかおかしい・・・ 2班は・・・
6・・・7・・・8・・・ 8人いるな
!!! 2班一人多いぞ?
「2班中継どうぞ」
『なんだよぉ』
「そっち何人います?」
『・・・7人だぞ なんで?』
「いやなんでもないです」
照明の逆光で顔が確認出来ないが何度数えても8人いる
あいつが紛れ込んでるのか?
御札は部屋に置いたままだしそれに付け込んで現場にまで来るのかよあの野郎!
恐怖より怒りが先に立ったが影が見えるだけでその夜は何事も無かった
そしてその3ヶ月後に俺は殺されそうになった
笹子から東京に向かうと初狩駅がありその先が大月駅
その晩の仕事は初狩と大月の中間地点
ゆるいカーブのある見通しの悪い線形の場所
点呼で職長から砕石の締め固めを命じられた俺は
通称プレートと言うエンジンで振動する道具を線路に運び込む
「肩」と呼ばれる線路両脇の砕石が山になっている部分で作業を始めたが
なぜか夢中になり隣接の下り線に最終の特急が来る事を忘れていた
24:05 列番5023M 新宿発特急かいじ123号は大月駅を発車
その3分後 夢中で作業する俺の頭の30cm横を
300トンを超える列車が時速80キロで通過した
「おい大丈夫か!」
へたり込む俺に見張員と職長が駆け寄る
「お前見張員もやってるのになんで気が付かないんだよ!」
列車見張員は担当路線のダイヤは分単位までとはいかなくても
中央本線が担当なら最終の各駅が通過したあと特急が通過
その後1時間弱で貨物が2本
観光シーズンの週末はその後にムーンライト信州が来る事くらいは頭に入っている
「当たったと思ったよ・・・」
同僚の見張員はそう言いながら俺の横でへたり込んだ
その夜の作業を終えて終了点呼でしこたま叱られた俺は宿舎の部屋に帰って
「このままじゃ殺される なんとかしなきゃマズい」 と混乱していた
しかし何が障ってるんだ? 樹海? 土地? それとも他の何かか?
「呪いの御神木の諏訪神社か・・・」
蒸気機関車の煙と振動で枯れてしまった諏訪神社の御神木
線路まで伸びた枝を伐採しようとしてその度保線員が死んでいる
国鉄がJRに変わった今でも手を出せずに4000万の費用を掛けて防護壁を作った
いわばJR公認の呪いの御神木・・・
20代の頃によく当たると評判だった成田山の占い師に見てもらった時の事
「アンタは金運も出世運も無いねえ その代わり長生き出来るよ」
「良いものか悪いものか見えないけどとても力の強いものがアンタを護ってる」
「アンタの『気』を使いたいからその何かがアンタを護ってるんだねぇ」
その何かが原因なんだろうか?
呪いの御神木に答えがあるんだろうか?
そして次の週末 諏訪神社にトライクで向かった
20分とかからず諏訪神社に到着
掃除は行き届いているが人気がない小さい神社
「これが呪いの御神木かぁ・・・」
枯れてしまい今では切り株だけが残りその横に巨大なホウの木がそびえ立つ
この大木の枝が線路に落ちないように鉄骨のガードが作ってある
お社に参って賽銭を入れる
よくご縁があるようにと5円玉を入れる人が多いが今時5円じゃ何も買えない
「ここの掃除してる人にジュースでもおごってやってよ神さん」
そう念じつつ120円を納めて拍手を・・・ いいやせっかく静かな神社だし
神さん寝てたら迷惑だよな そう思って手だけ合わせて帰路に
不思議と嫌な感じもしなかったしむしろ居心地が良かった
鹿島神宮のそれと似ていたのはヤマトタケルゆかりの神社だからか?
それから不思議と怪現象は起こらなくなり本当に平穏無事になったのだが・・・
この話には悲しい結末が待っていた
甲府や河口湖に行く時に時間が許せば諏訪神社に寄り賽銭を入れる
仕事が忙しくて久しぶりの参拝の時は
「神さん仕事忙しくてご無沙汰ですわ
その分給料良かったから少ないけどお社の維持費の足しにしてよ」
と念じて1000円札を入れた事も何度かあった
しかし別れの時は突然訪れる
この話の次の年に俺は仙台に転勤が決まったのだ
もう参拝できないんだなぁ 縁あって通ってたのに寂しいなぁ
と思いながら笹子の地を離れた
そして仙台で働き始めてしばらくたったある日 臨時の社内報が回って来た
http://www.xanthous.jp/2014/07/18/ohtsuki-route-20-by-pass/
笹子で一緒に働いていた同僚が亡くなったのだ
単なる居眠り運転なのかそれとも俺の代わりに引っぱられたのか
同乗の職長はこと安全にはうるさい人で
居眠り防止と称して助手席でマシンガントークを展開して
絶対に居眠り運転させないと評判だったのだがなぜかこの時だけは
「気が付いたら車ごと落ちてた」
と言っていた
今は仙台から小金井に転勤して何事も無いが
いつまたあの黒い子供たちが現れるかと思うと不安になる・・・
そして小金井に住んで半年
近所に由緒ありそうな神社やご利益のありそうな立派な神社が散見されるのだが
どういう訳か参拝に行く気がしない
唯一参拝したのはトライクでぶらぶらしている時に見つけた
所沢だか狭山あたりの小さな神社
何か呼ばれたような気がして吸い込まれるように入って行ったのを覚えている
「アンタの『気』を使いたいからその何かがアンタを護ってるんだねぇ」
その何かの正体も3人の黒い子供たちの正体も分からないまま
とりあえず今でも元気に仕事はしているが
転勤の多い職業柄またどこかの土地で奴らに狙われるかも知れないと思うと気が重い・・・
~~終わり~~
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