71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2020/01/25(土) 04:06:59.05 ID:zGha+KQE祖母が倒れたと聞いて、俺は焦った
なけなしの有休を使うことにして祖父母の住む田舎に向かった
夜明けまでには着くかなぁ
今日の仕事の疲れもさながら家は遠い
時計が二時を回ったところで一息入れる
祖母に対する不安はあったが、事故を起こしては元も子もない
二三台並ぶ自動販売機に車を付ける
車から降りて、小銭を入れていると、自動販売機の光に照らされて女性が見えた
髪がぼさぼさのはだしの女性。口をパクパクと動かしている
二度見したかったが、恐怖でできなかった
ガコンとコーヒーが落ちる音がするやいなや、車に駆け込む
エンジンをかけようとして、手が空を切る
車のカギがない、刺さっていない、外した記憶はない
その瞬間、ガッチャと集中ロックの音がする
背筋に上るような不安を覚えて手元を見る
俺だ、俺が押したんだ。その指はしっかりとボタンについている
落ち着け落ち着け落ち着け、パニックになるな
深く深呼吸をしようと息を吸い込んだ、はず。
次は、けたたましいクラシックがカーステレオを通して流れ出た
胸を押さえていた左手は、音量スイッチを押している
恐怖をあおる音に、俺は訳が分からなくなって全力でアクセルを踏んだ
車は猛スピードで走りだし、俺は逃れられないその音から逃るように
スピードを上げた
視線が気になってバックミラーを見ると、さっきの女が手を振っている
…手を振っている。顔が見える、口元が笑ってる、いや、中にいる。
バックミラーに移る瞳が車内にあると気付いたとき、
俺は二度と夜明けを迎えることはないんだと分かった
おちまい
72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2020/01/25(土) 21:31:10.20 ID:zGha+KQE書くか
73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2020/01/25(土) 22:21:05.85 ID:zGha+KQE昔に比べ、めっきり少なくなった煙突のある銭湯の前に、男は立っていた
ストライプのスーツに白蝶のカフス、気品の中に親しみを感じさせるこの男は、セールスマンであった
セールスマンといっても、客は社長令嬢や、政界の妻といった金持ちばかりだ
朝早く出社し、身なりを整え、現場に向かう
彼は自分の仕事に誇りを持っていた、売り上げも会社の中でトップだったし、客からの信頼も厚い
そんな男がなぜ、会社からほど近い、古ぼけた銭湯の前で仁王立ちしているのか
それは、男が股の間に茶色の固形物を隠し持っているからだ
誰だって、気が緩んだときに、にわかに力が入れば、そうなる
彼の肛門もまた、銭湯の向かいにある犬にほえられた際のスキを突いた。ただそれだけだ
男は少し悩んでから、足をコンパスのようにして暖簾をくぐった
昼間だから誰もいないだろうと高をくくっていたが、靴を脱ぐときに一人の男とすれ違った
「あの男、すごくこちらを見てくるな。やはり臭いは隠せないものか…。犬のくそでも踏んだのだと思ってくれればいいのだが。」
悟られまいと平静を保つが、冷汗はだらりと流れた
自分がブリーフ派であったことを心から感謝しつつ、服を脱ぐ
茶色い日ノ丸ブリーフをカミソリや、歯ブラシが捨ててある、ゴミ箱にそっと置いて番台に金を渡す
「いや、目の細い婆でよかった。あまりこちらが見えていないようだ。それにしてもさっきの男には気づかれてしまっただろうか?
セールスマンは印象が第一。悪い噂でも流れると大変なのだが。」
身体を拭き、髪を整えても、心の不安は洗い流せない
服を着ると、歩くたび、シルクの感触が伝わってきて気持ちが悪い
男はこれからどうしたものかと考えながら玄関で靴を取る
上りかまちに腰を下ろし、靴ひもを結んでいると、ガラガラと戸が開いた
そこに立っていたのは、神妙な顔で足を放るように歩く若い男であった
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