>>7 続き
父は知っていた
ベトナムに帰国後、また日本に行きたいというカインさんのことをどう思うのか。ハノイ郊外の実家で私は両親に聞いてみた。すると2人は「一緒にいてほしいが、子どもがやりたいことを応援したい」と口をそろえた。
母親のダン・ティ・ランさん(53)は「日本の街はきれいで企業もしっかりしている。人も良い、と頻繁に海外旅行している親戚から聞いた」と語った。
カインさんは、「心配をかけたくない」と日本で除染作業をさせられていたことを両親に打ち明けていなかった。
カインさんが席を外したとき、父親のグエン・スン・バーさん(56)が私につぶやいた。
「最初の会社は良くなかったようだ。体が悪くならないか気が気でない」
お父さんは知っているようだ、と後で耳打ちすると、カインさんは「なぜ」と首をかしげた。「(交際していた)彼女が話したのかな……」。でも、自分から両親に除染のことを持ち出すつもりはないという。
カインさんが日本で稼いだお金で、実家の2階部分は建て増しされていた。あと数年は日本で働いてから帰国し、結婚して自分たちは2階で暮らす――。カインさんはそんな未来図を描いている。
(続く)