公的年金運用益4.7兆円 ~ しかし、公的年金は金融的には実質破綻している
近藤駿介 2016年03月02日 14:20
http://blogos.com/article/164181/
「公的年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が1日発表した2015年10~12月期の運用成績は、4兆7302億円の黒字だった。期間収益率は3.56%で15年7~9月期(マイナス5.59%)から改善。国内外の株式相場が反発したことが寄与し、2四半期ぶりにプラスとなった」(2日付日本経済新聞 「公的年金 運用益4.7兆円」)
GPIFが運用する公的年金の2015年10~12月期の運用状況が明らかになった。2015年7~9月期に7.9兆円の損失を出したが、10~12月期にその約6割を取り戻した格好。
しかし、喜んでばかりはいられない。2016年初からの世界的株価の下落傾向を受け、「現時点で運用収益がマイナス基調」(1日付日経電子版)となっているからだ。
実際に、発表された2015年末時点での運用資産額(139兆8249億円)を基に、ポートフォリオが維持されている等の仮定をおいて試算すると、2016年2月末時点での運用資産額は131.5兆円前後と、2015年末から約8.3兆円減少している可能性が高い。
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運用収益が約7.9兆円の赤字だった2015年7~9月期の運用資産額の減少幅は約6兆円であった。このことと比較しても、年明け以降約8.3兆円運用資産額が減っているとしたら、赤字は2015年7~9月期の7.9兆円を遥かに上回る規模になる可能性が高い。
また、2015年3月末時点の運用資産額は約137.5兆円であるから、2015年度を通しても運用資産は6兆円程減少していると推察される。さらに、2015年6月末の141.1兆円と比較すると10兆円少なく、2014年9月末の130.9兆円とほぼ同規模まで資産が減って来ているということである。
こうした公的年金の運用状況は大いに問題ではあるが、その問題は赤字だ、黒字だという運用状況だけではない。
「GPIFの三石博之審議役は1日の記者会見で『短期で見れば収益のブレは大きくなるが、年金財政上、必要な額を下回るリスクは小さい』と強調した」(同日本経済新聞)
GPIFは公的年金の運用状況について「年金財政上、必要な額を下回るリスクは小さい」としている。そして同じような認識は安倍総理も国会答弁で示している。
一般的に、確定給付型企業年金などは5年ごとの財政検証によって、将来年金受給者に支払う必要のある金額を推計し、実際に持っている年金資産が十分かどうかの判定を行っている。そして保有する年金資産が将来の給付額に対して不足する場合は、年金債務として会計上処理して行くことになる。多くの大企業はこうした年金債務に伴う会計的負担に耐えられずに確定給付型年金から確定拠出型など、企業の負担が少ない年金制度に移行して来ている。
ところが、公的年金の運用に関して「年金財政上、必要な額」は示されていない。おそらくそれは、公的年金は、現役世代からの保険料収入がそのまま年金給付に回るという「賦課方式」を採用しているために、将来の負債は存在しないという考え方に基づいたものである。
つまり、「年金財政上、必要な額」というのが不明であるが故に、今回発表された139兆8249億円という金額が、将来の年金給付に必要な額と比較して十分なものであるのかチェックしようがないという状況になっている。
(>>2以降へ続く)