“近代マーケティングの父”が資本主義を論じる
――最新作『資本主義に希望はある』では、タイトルの通り資本主義をテーマに掲げています。コトラー先生はマーケティングの専門家としてのイメージが強く、これには意外な印象を受けました。
フィリップ・コトラー(以下略) みなさんは私をマーケティングの専門家だと思っているかもしれませんが、私は米国でも著名なシカゴ大学とマサチューセッツ工科大学(MIT)という二つの大学で経済学の博士号を取りました。単に著名な大学というだけではなく、私が師事したのは、ミルトン・フリードマン、ポール・サミュエルソン、ロバート・ソローという3人のノーベル経済学賞受賞者です。私はこれまで常に、経済学者として市場のさまざまな側面を検討してきました。この本ではマーケティングの観点から資本主義という経済理論を包括的に扱っており、その問題意識は一貫しています。
――なぜ、このタイミングで資本主義について議論する必要があると考えたのでしょうか?
資本主義がみずからを傷つけている、そうしたサイクルにあるのではないかと考えたからです。いま、あまりに膨大な富が限られた人たちだけに集中しています。本来、生産性が高まることで労働者、サプライヤー、ディストリビューターなどのコミュニティ全員にその富を配分されなければなりません。しかし現実には、CEOの報酬や資本家の価値は上がっているものの、中間層の規模そのものが縮小していることと相まって、労働者の平均賃金は1980年代とほとんど変わっていないのです。
資本主義は、市場に製品やサービスを提供することで存続してきました。しかし、消費者がそれを買うことができない、あるいはクレジットカードやローンを利用して借金してでも買わなければならない状態であれば、それは資本主義そのものが傷ついていることを意味します。また、消費者側が借金をしたお金を返せなくなることでちょっとした景気後退期に入り、そのまま大恐慌のような状態に突入することも問題でしょう。
健全な資本主義とは、常に需要と供給のバランスが取れている必要がありますが、いまはそれがうまく機能していません。マーケティングは、「買え、買え」と消費者を喚起しますが、子どもを大学に通わせるにも、住宅を買うにも、車を買うにも借金する必要があるならば、資本主義自体が崩壊する可能性があります。なかには、とても苦しい立場に置かれた人たちが資本家に大反乱を起こすのではないか、と言う人すらいるのが資本主義社会の現状なのです。
>>2へ続く
ソース
近代マーケティングの父
http://www.dhbr.net/articles/-/3829