物語とか書いてみる #56

56以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2017/01/09(月) 20:38:13.51 ID:AA+lQcYc

 どれくらいそのベンチに座っていただろうか。二人で黙って座っている間に、陽が傾きだした。園内がうっすらと赤みを帯びる。雲一つない空が、徐々に赤色に染まっていく。まるで赤の絵の具を何度も何度も塗り重ねているかのようだ。今日一日の疲れがすっと抜けていくように感じた。最後に夕焼けを見たのはいつだったろうか。空を見上げるということを、最近はすっかり忘れていた。横では成田が同じように顔を上げ、何も言わずに空を見つめていた。

 やがて周りにいた人たちが帰り始めた。楽しげに笑いあいながら出口の方に歩いていく。この時間になると、これから別のアトラクションに向かうのは難しいだろう。そう思いながら成田に声をかける。

「大丈夫か」

「うん」と彼女は答えた。さきほどよりは声に力がある。

「だいぶ疲れたし、今日はもう帰るか」と言うと

「そうだね」とだけ返す。

 そんな会話をした後も、ふたりは動かなかった。このまま夕焼けを見ているのも悪くないと思った。ふと成田が言った。

「今日は楽しかったなあ」

 ひとりごとのようなその口調に、俺は思わず口をつぐむ。彼女は後に続けて

「また来たいな」とつぶやいた。静かに微笑む彼女の頬は、ほんのり夕日に染まっていた。

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