「尋常じゃないんだよな、ネクターに対する欲求が。俺の親父さ、結構まじめで物静かなんだよ。家じゃほとんど話さなくて、俺や母さんの話に笑いながら相槌を打つだけ。そういう性格なんだ」
「そうなの」
「前にさ、親父が仕事休みだった日にネクターを買ってくるよう言われたことがあったんだよ。その日は朝からひどい天気で、とても外に出る気にならないような日だった」
彼女はナイフとフォークを持ったまま黙って聞いている。
「俺断ったんだよ。こんな日に外なんか出たくないって。ネクターなんか一日くらい我慢しろって言ったんだ」
「うん」
「そしたらあいつ滅茶苦茶に怒ってさ。壁を殴るわ腕時計を投げつけるわで大暴れしたんだよ」
「え」思わず声が出たといった様子で成田がつぶやいた。俺は軽くうなずいて続けた。
「俺は買いに行くからって言って親父をなだめた。そしたら親父はいつも通り物静かな親父になったよ。ジュース代も500円くれてさ、お釣りは返さなくていいって。俺は親父の変わりようにびっくりしてたし、外はひどい土砂降りだったけど仕方なく買いに行ったんだ」
「そんなにネクターが好きなんだ」
「異常だろ?母さんによると昔からそうらしい。それである日思ったんだ。俺の根久夫って名前はネクターからきてるんじゃないかって」
「なるほど」成田は神妙な顔をしている。
「それで、親父に聞いてみたんだ」
「お父さん、なんて言ったの?」