しばらく待っていると、さっき注文を聞いていったウェイターがコーヒーとパンケーキを持って来た。それぞれ運ばれたものを受けとる。成田のパンケーキは掌よりふたまわりも大きい皿に乗っていた。彼女がフォークとナイフでケーキを切り始めたのを見ながら、俺はスティックシュガーを一本コーヒーに入れた。
それぞれ食べ物や飲み物を口に運びながら会話をしていると、話は自然と学校生活へと向かう。先生への評価や部活の話などしていると、ふと成田が話題を変えた。
「ところで前から思ってたんだけど」パンケーキを切りながら成田が言った。
「なに」
「須藤の名前ってなんていうか……変わってるよね」
根久夫という名前は確かに他には聞かない。自分でも珍しい名前だと思う。
「そうだな。俺も昔そう思って、親父になんでこんな名前にしたのか聞いたことがある」スプーンでコーヒーをかき混ぜながら言う。
「なんて言ってたの」手を止めて成田が聞いてきた。
「なんでも『長く根気強い男であれ』っていう意味らしい」
「へえ。いい名前だね」
「まあな。でも、俺は本当はそういう意味じゃないと思ってる」何気なく手を止める。
「どういうこと?」
「ネクターってあるだろ。あの甘ったるいジュース。俺の親父あれが好きなんだよ。毎日仕事の帰りに買ってくるくらい」
「ふうん?」ぴんと来ないというように成田は息を漏らした。