>短編小説『武蔵テレビの井戸端会議』
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>二子玉川にそびえる武蔵テレビの社員食堂は、ランチタイムになると多くの社員で賑わう。そこでは、ニュース番組を制作する報道局の女性社員たちが、今日もまた自然と集まり、噂話に花を咲かせていた。
>「ねえ、聞いた? 鳥松常務の件」 最初に口火を切ったのは、報道局の若手記者、綾瀬だ。
>「もちろん。まさかあの人があんなことしてたなんてね」 経済班のベテラン記者、佐伯がため息交じりに答える。
>「でもさ、なんか意外じゃなかった?」 社会部の川端が箸を止め、顔を上げる。「だって鳥松常務、普段はめちゃくちゃ厳しいけど、下心ある感じじゃなかったじゃん?」
>「そうなのよ。むしろあの人、仕事以外に興味ないタイプだと思ってた」 綾瀬も頷く。「でも、結局は私たちの思い込みだったってことかもね。上の人間の本当の姿なんて、下の立場じゃ分からないのかも」
>「しかし……今さら十年以上も前の話が出てくるのもどうなのかしらね」 佐伯が静かに言う。「証拠もないし、時効も成立してるし、結局は言ったもん勝ちじゃない?」
>「でも、社内の空気はもう鳥松常務が悪者って感じになってるよね」 川端がため息をつく。「牛川専務なんて、すっかり『知らなかった』って顔してるけど、絶対知ってたでしょ」
>「ねえ、それよりもさ……」 綾瀬が少し声を潜める。「鳥松常務に『休日の君の自撮り写メ送れ』って言われたあの人、最初は期待してたんじゃない?」
>「えっ?」 川端が目を丸くする。
>「いやだってさ、普通そんなこと言われたら『ええ? 彼氏とのデート中のラブラブ・ツーショットとかで良いんですか?』とか『飼い犬の写真で勘弁して』って笑って軽く流せばいい話じゃん。でも真面目に受け取って騒いでるってことは……」
>「全裸の自撮り動画を送れという意味だと勝手に思い込み、不倫セックスの御誘いの前振りだと あの人 思い込んで第三者委員会に垂れ込んだってこと?」 佐伯が少し呆れたように笑う。「『君の自撮り画像を送ってくれ』って言われて、全裸の自分に欲情した鳥松常務と不倫セックスする卑猥な妄想を膨らませて すっかり舞い上がっちゃってたのかしらね あの人」
>「根っからの真相報道オタクだから鳥松常務の方は。 男っ気のない彼女の休日の過ごし方が報道記者として気になって気になって仕方なかっただけのような気もするけど…」
>「1対1で食事やドライブまで行っておいて、最後まで何もなかったから、鳥松常務に対して彼女の欲求不満が爆発したってとこでしょ 事の真相は?」 綾瀬が冗談めかして言う。
>「それあり得る。だって、最初から『女友達も連れてっていいですか?』とか聞けば良かったじゃん。でも1対1でドライブに行ったってことは……」 川端が意味ありげに口元を覆う。
>「鳥松常務と不倫する気、満々だったんじゃない?」 佐伯がニヤリと笑う。