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>「まあ、本人たちにしか分からないことだけどね。でも、これって結局、後になって都合よく『ハラスメントされた!』って言ってるだけじゃない?」 綾瀬がスプーンを回しながら言う。「牛川専務に手を握られたって垂れ込んだ あっちの人も もし本当に嫌なら、その場で『奥さんに言いつけちゃいますよ』とか、冗談めかして牽制すれば良かったんじゃない?」
>「だよねえ」 川端が頷く。「私だったら絶対そう言うわ」
>「でも、それをせずに黙ってたから、牛川専務は『ああ、この子はそういうのOKな子なんだな』って思ったんじゃない?」 佐伯が冷静に言う。「で、今になって『私は被害者です』って言われてもねえ」
>「そう考えると、報道の私たちがこんな話をしてるのも、ある意味どうなんだろうね」 綾瀬がぼそりと言う。「結局、私たちも裏取りなしの噂話をしてるだけってことなのかも」
>「でも、社食の井戸端会議って、そういうもんでしょ?」
>「ええ そう。 武蔵テレビの体質がどうのこうのって… そんな大袈裟な話じゃないよね どこの会社にも転がってそうな話だと思うけど…」 川端が苦笑する。
>佐伯が微笑む。「彼氏のいない女の欲求不満ってホント怖いねえ。 勝手に妄想膨らませた挙げ句 下心も無さそうな男の人を食い殺しちゃうんだもんねえ。 さて、午後の仕事に戻るとしますか」
>そう言いながらも、彼女たちは知っていた。社食でのこの会話もまた、次の日には誰かの耳に入り、新たな噂となって広がっていくのだということを──。