俺が中2の時にひぐらしにハマって書いた痛い小説読みたい? ID:m5pcPhV9

18以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/12/01(火) 00:00:31.38 ID:m5pcPhV9

僕は教室を飛び出し、職員室に入る。
 元のままだ。血痕も綺麗さっぱり消えている。
 先生が後ろからどうしたことかとおいかけて来た。

「麻耶さん、どうしたの?」
 僕は冷や汗をだらだらとたらした。
 いったいどうなってしまってるんだ?

「だって、だって先生が!」
「さあ、教室に戻りましょ」
 唐突に話をせき止められる。おかしい。
 僕はしぶしぶクラスに戻ることになった。

 あの女の人は誰だ?
 僕はその女性を知るはずも無い。
 すると横からメモが来た。和美ちゃんからだ。

『お祭り、来る?』
 まったくのんきなものだ。
 でも確かに祭りも面白そうだ。
 OKとでも書いて渡しておこう。

 案の定手紙を見せたら嬉しそうな雰囲気を漂わせていた。
 実に分かりやすい。そこがまたチャームポイントなんだよなー。

 そうこうしてまた下校。
 その時、和美ちゃんは僕の腕をむんずと掴み、校舎裏まで来た。
 まさか、告白?でも同性だし、嬉しいけどそんなことだめだよ・・・
 本当に告白だったらどう返答しようかな、るんるん。

「あの、ね」
「うん」
「いや、君にも失礼だし、ごめんね」
「どうしたの?なにか、告白?」

「私を守ってほしいの」

19以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/12/01(火) 00:01:44.99 ID:m5pcPhV9

 これは、告白か?
 いや、告白だ。絶対に告白だ!
「いいの?僕なんかで、しかも、同性なのに」
「うん。君がいいのなら」
(もちろんオーケーだよ!いやあこんな事なんて)

「昨日、先生が消えたよね」
 あれっ?
「私もじきにこうなるわ。だから私を守って欲しいの。おねがい。私を守って!」
 あれれ?
「ごめんね。急にこんなことを聞いちゃって。やっぱり無理あるよね。同い年の女の子に頼むってさ。」

 理解するのに数十秒かかった。
 先生が消えたのは、何らかの「理由」があり、
 その「理由」によって和美ちゃんも「消える」。

 あまりにもわけがわからない。理解しきれない!
 先生と和美ちゃんが何かしらの共通点を持っているのか?

 でも、人一人の命を僕に託すことはそれ相応の決心があるってことだよな。
 その気持ちを僕がぶち壊すなんて、そんなひどいことはできない。
「わかった。和美ちゃん。僕が守る。」
「ありがとう・・・。」
 ポロポロと涙を流し始め、僕の胸ぐらに飛び込む。
 相当な気持ちだったのだろう。

 和美ちゃんが泣くのをやめたのに、そう時間はかからなかった。
「アリガト。さあ教室にもどろう。あ、」
「あ?」

「今週の土曜にお祭りがあるんだけどもちろん一緒に来てね!」
 すぐに和美ちゃんは笑顔になり、走って戻っていった。
 でもここで戻ったとしても、どうせ授業内容はいつもの自習だ。
 しばらく休憩しようかな。

 静かな山々、美しい夕日、この清潔な景色の下には一体何が起こっているんだ?


チャー研並に展開が早いから気をつけろよな

20以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/12/01(火) 00:03:15.96 ID:m5pcPhV9

 ゾロゾロと人が出て行く。もう終わったのか。
 その中に和美ちゃんの姿があった。
 笑顔で下級生と話す和美ちゃん。僕も見習わなきゃなぁ。
 今までは人見知りで友達ゼロ人。今度こそは人見知りを直さなきゃ!と思っていたけど・・・。
 やっぱ無理っぽいな。

 とりあえず「私を守って!」と言われたからには和美ちゃんを精一杯守らなければならない。
 じゃあそうやって守ろうか。常に和美ちゃんを見守る?それじゃストーカーになってしまう。
 そうか。連絡手段を途切れさせなければいいのか。
 しかし、僕の家には電話が通ってないしなぁ・・。くそう。

 僕の存在に気づいた和美ちゃんは僕を手招きした。

「簡単な事じゃない!私と一緒に暮らすのよ」ケタケタと笑いながら言う。
突拍子もないことをよく言えたもんだ。
「大丈夫。お父さんとお母さんにも言って、了解してもらったわ」

 嬉しいのか恥ずかしいのか頭の中がごっちゃになる。
 一番最初に考えついて、一番最初にボツにした案を言われるとは思いもしなかった。

「でも、さすがに年頃の女の子と一緒だと、僕、ぼく」
「ええい、うるさいうるさい!お主に問う」
 突然お殿様のセリフで話す。なんじゃこりゃ。
「お主、ワシを守るともうしたのであろう」
「うん」
「ならばグチグチ言うものではない!ホイ来なさい」

 腕をむんずと掴まれる。
 でも、同じ部屋なら、あんなことやこんなこと、そんなことがぐひひひひ・・・
「顔が火照ってるわ。どうしたのよ」

 今日の小型犬(大型)はおとなしく、心地よさそうに眠っている。
 玄関で和美ちゃんのお父さん、お母さんが出迎えてくれた。
 なるほど、あの髪はお母さんゆずりなのか。

「ようこそいらっしゃいました」
「よく来たな。君の荷物は入れてあるからな。ささ、中へ」

 半ば強制的に家の中に入れられる。
 部屋は想像(妄想?)のごとく和美ちゃんの部屋だった。
 見事に前からここに住んでいるかのように僕の布団がひかれ、その上に荷物が置かれていた。

「どう、気に入ってくれた?」
「うん」
「もう夕ごはんは出来てるわ。下に来なさい」お母さんの声が聞こえた。

 夕食は白いご飯と焼き魚、野菜炒め。今までの僕の食生活とは全く違う。
「和美、好き嫌いはなしですよ。もちろん麻耶ちゃんもね」
「でも、でも玉ねぎだけは!お許しください!」
「ダメです」
「うわあああ!」頭をぐしゃぐしゃと掻く和美ちゃん。
 普段の真面目な和美ちゃんとはまた違う和美ちゃんだ。
 そんな姿を見せてくれるということは僕に対してそこまで緊張していないということだ。
 嬉しいような、嬉しくないような。

21以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/12/01(火) 00:05:34.44 ID:m5pcPhV9

 あっという間にお皿には何もなくなり、食後のカップアイスを食べつつテレビを見ている時だった。
「それで、君は娘を守ってくれるのだね」いつになく真剣な顔をして和美ちゃんのお父さんがそうポツリと言った。
 もう事は知っているようだった。
「はい。娘さんを僕が命にかえてでも守ります」
 数秒の間があり、穏やかな顔に戻った。
 やはり、一人娘は何にかえることもできないんだなぁ。
 僕のお父さんもそれくらいの気持ちはあってもいいのに。ぶぅ。

 ふぅ・・・ふろは気持ちがいいなぁ・・・
 「そうだねー気持ちがいいねぇー」
 何故か一緒に湯船にはいっている和美ちゃん。
 裸同士の付き合いをしたいということで風呂に一緒に入りたいらしい。

 地味に僕よりあるじゃないか・・・。
 ちょっと自慢だったのに・・。

 裸の付き合い、か。

「さあ、寝ましょう。」和美ちゃんは電気を消した。
 電気を消すと、窓から今まで気が付かなかった星々が鮮明に、そして美しくきらめいていた。
「うう・・・先生、先生、せんせえ・・・」
 和美ちゃんは毛布にくるまり、震えていた。
 僕は何もすることができないのか・・・
 和美ちゃんのお父さんのあの穏やかな顔を思い出す。
 そうだ、僕は和美ちゃんを守らなきゃならないんだ!

 僕はくるまっている毛布ごと和美ちゃんに抱きつく。
 今はこれしかできない。何も言えないんだ!
 和美ちゃんは必死に抵抗をする。でも僕はやめなかった。
 これが守る方法だとわかっていたから。
「大丈夫。大丈夫だから。守るから!」
 今どき「大丈夫」ほど大丈夫じゃない言葉はないが、それでも和美ちゃんは安心したらしい。
 抵抗は緩やかに収まり、もう安心したのだろう。そのまま寝息を立て始めた。

 ほっと一息つき手元にあったカレンダーを見る。
 今日で一週間目。時が経つのは早いなあ。
 見ると明日の土曜日にバツ印がある。
 例の祭りの日か。結局「ササゲミ」について聞かずじまいだったしどんな祭りなんだろう。
 和美ちゃんは練習に精を出してると聞いた。明日が楽しみだ。

23以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/12/01(火) 00:07:41.79 ID:m5pcPhV9

「おーい起きなさーい」肩をゆすられる。
 朝やけが遠くに見える。いつもならまだ寝ている時間だろう。

 僕はまた布団にくるまる。
 しびれを切らしたのか、和美ちゃんはドカドカと布団の城を蹴りだした。
 こんなことで城をあけわたすわけにはいかない!
 しかし城は一瞬のうちに白旗を上げた。
 ご飯にはかなわないのであった。実に無念!

「おはようございます」
 見るとお父さん、お母さんが朝食の用意をしている。コーヒーの香りが眠気を綺麗に立ち消えさせた。
 机の上に弁当が2つちょこんと置かれていた。
 僕も家族の一員かぁ・・・。なんだか、うれしい。

「麻耶ちゃんの好きな食べ物がわからなかったから、昨日の残りを入れておいたからね~」
 台所でお母さんが言っていた。弁当?
「なんで弁当が必要なんですか?今日は学校がないはず、」

「お祭りの準備のお手伝い。夕方までには完成させないといけないから、早くし始めないといけないの」
 横から和美ちゃんが入ってきた。
「夕方から、ですか。結構舞台とか大きそう」
「この地区の一大イベントだからね。ここの地区の人々は、これのために生きているって言っても過言ではないのよ~」

「さあ、朝食ができましたよ~」

 テーブルには、新鮮なサラダ、ゆでたまご、そして小麦色にカリカリに焼けて、
 その上に溶け出している黄色のバターが上手にマッチしているパン、
 そして、この朝食の引き立て役のホットミルク。
 食事のいちいちが可愛らしく、僕の乙女心をくすぐる。

 一口、パンをかじる。
 小麦の芳醇な香りが口腔内に広がる。
 それをホットミルクで流し込む!
 ミルクとパンは絶妙にマッチし、それは上手な二人三脚のように旨味を増幅させていく。
 次にサラダだ。美しく、新鮮な緑に染まった宝の山を、次々に口に入れる。
 そして最期の大トリ、ゆでたまごだ。
 ゆでたまごの皿に塩、マヨネーズが乗っかっている。
 そして僕は迷わずに塩を選ぶ。
 なぜかって?好きだから!
 塩はひとつまみがベスト。そして、ひとかじり。黄身が上手に半熟だ。
 お母さん。これは手馴れているね。ゆでたまごを食べ続けてきた僕だから分かる。

「どうしたの?麻耶ちゃん」
 端から見たら死んだような目をして朝食をばくばく食べていたのだと後になって和美ちゃんから聞いた。
 なら途中で言ってくれればいいものを・・・

24以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/12/01(火) 00:09:59.48 ID:m5pcPhV9

 家からじゃり道で30分。ちょっとこんもりしている山の頂上だという。「ちょっと」が気になる。

 やっぱり思ったとおりだった。都会っ子は軟弱だと言われるのはしょうがないのかな。
 頂上にたどり着くと大きな木が目の前に現れた。
 今まで見たことがないほどの威圧感。
 神社などのスピリチュアルにまったくうとい僕だけど、この場所は神聖な場所なんだなということを
 すぐに悟った。ただ木が一本立っているだけなのに。

「ああ、お城ちゃんがササゲミの役か。頑張りぃ」
「ありがとうございます」
 年老いた男性が和美ちゃんと談笑している。
 ・・・そういえば、消えた先生が「ササゲミ」について知っていたけど、何だったんだろう。

 おずおずと聞いてみる
「あの、ササゲミって、何なのですか?」
「えーっとな、話すと長くなるが、」
「私から説明するわ。昔、遥か彼方から人々がここに来たっていう伝説があったのよ。
 そこの人々が昔からここにいた人に様々な技術を教えて、今に至るらしいっていう話なの」

「あれ、でも、その技術が発揮されているようには見えないんだけど」
「その技術は主に豪族の人たちに教えられたんだけど、
 そのあと戦乱があってその技術も忘れ去られたんだってさ」和美ちゃんは残念そうな顔をした。
「もったいないなぁ。なにか書き残しておいたらいいのに」
「んで、その人々を奉るために、この木を祀っているんだって」
 木に目をやる。
「それでその催し物が、」
「今日ってわけ」

 さっきの男性がリアカーに色々と入れている。
「さあ、組み立てるぞ!」

 大木の前に木の机があり、その木の机から赤いカーペットが一直線に敷かれている。
 その両脇には円柱の木の棒が50本づつ並べてたってある。
 円柱をたてるのが僕達の仕事だ。
 日本の祭りとは思えないようなものがたくさん目に入る。
「これでよし、と」
 満足そうな顔で和美ちゃんが見上げた。
 もう夕方だ。山からの眺めも素敵。
 人々の熱気と喧騒が下から聞こえる。もうすぐ祭りの始まりだ。

 僕は屋台で勝ったりんご飴をぺろぺろなめつつ、和美ちゃんの用意してくれたござに座っていた。
 この場所は和美ちゃんが好きな場所で、いつもお祭りの時にはここでござを広げて見ているそうだ。
 お父さん、お母さんもカメラと三脚を担いで来た。
「これで和美も一段と大人に近づいていくんだなぁ」
 お父さんがしみじみとした顔で語っていた。そうして祭りは始まった。

 下ノ瀬地区の催し物の子供の踊りで祭りは幕を上げた。
 その後は婦人会の踊りなどなど、普通のお祭りが続いた。
 僕はりんご飴の2つ目の袋を開けようとした。するとスポットライトが消えドン、ドン、と太鼓のなる音がし始めた。
 オオトリの始まりだ。

25以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/12/01(火) 00:12:36.11 ID:m5pcPhV9

白い着物を着た和美ちゃんが赤いカーペットの端に立っている。
 スポットライトが和美ちゃんに当たると人々の歓声が巻き起こる。
 若干緊張していた和美ちゃんは何かを唱えている。
 大丈夫かと心配しているお母さんの方をポンポンと叩き、「大丈夫だよ」と落ち着かせているお父さん。
 町民のみんなが和美ちゃんに注目して、応援している。頑張れ和美ちゃん!

 そして何かを唱え終わったあと、しゃなりしゃなりと歩き始めた。
 なんとも言えない美しさ、気品がある歩きかただ。いつもの和美ちゃんとは違う。
 いや、これが本当の和美ちゃんの姿なんだろうか。
 本当の和美ちゃんは、気品があって、透明な美しさ、おしとやかな女性なのだろうか。
 僕はそんな「本当」の和美ちゃんを守れているのだろうか。
 守るということはどれほど難しいか再認識した。
 和美ちゃんは木の机までにたどり着き、ひざまずく。
 ここからの練習がきつかったと話していた。僕も胸がばくばく鳴っている。
 和美ちゃんはすっくと立ち上がり、机の上においてある大きな木のコップを持ち、
 なみなみとついである水を飲み始めたのだ。
 苦しそうな和美ちゃん。うう・・・。自然とお腹に力が入る。
 そうして、飲みきった。顔が白くなっている。
 そうしてまた崩れるようにひざまずく。場は最高潮だ。
 そして最後、ふりしぼる力で手を宙に上げた。成功したのだ。

 和美ちゃんの元へ駆け寄る。ヘトヘトになって座っているのが精一杯のようだった。
「お疲れさま。このりんご飴、舐める?」
「いや、もう何も入らないわ。胃の中がぱんぱん、」
「ぱんぱん?」
 和美ちゃんは茂みの中に急いで入っていった。「ちょっと耳をふさいでおいて!」
 茂みから死にそうな声が聞こえてきた。なるほど、耳をふさぐ。

「オーケーだよ!」
 外では女の子に似合わない音が聞こえるのだろう。
 何分か経って、スッキリとした和美ちゃんが戻ってきた。
 飴をあげると、がっつくようにになめ始め、飴は消えてなくなってしまった。
 もうちょっと舐めときゃよかった・・・。

「まったく、男の子だったらまだしも、女の子になんでこんな事をやらせるのでしょーかねぇ」
「本当に日本とかけ離れた祭りだよね。三大奇祭に入ってもおかしくないのに」
「一度登録しようとしたんだって、でも無理だったみたい」
「なんで?」
「ここの地区の有力者たちがそれを取りやめさせたんだってさ。たくさんの人が来ると
 その祭り自体が観光の催し物のように軽く扱われるのが嫌だからーって」
「私としてはもっとこのお祭りが有名になって沢山の人に来てほしいと思うけどね」
「僕はどっちもどっちだと思うなぁ。このまま閉ざしたままだと絶対に遠くない未来に
 このお祭りはなくなっちゃう」
 和美ちゃんがふんふんと首をふる。かわいい。
「でもさ、観光地化したら、確かに人は来ると思う。でも、
 今のように一体感あふれて、あたたかいこんなお祭りになると思う?」
「まぁ、それは・・・」
「僕は知っている通り都会から来たんだけど、お祭りは騒がしくて、事件や乱闘なんてあたりまえ、
 さらに危ないお兄さんたちがウロウロしてるんだよ!ここのお祭り会場に来た人たちくらいに!」
「ひっ」と小さな叫び声を上げる。まぁ脅かすのはこれくらいにしとかないと。
「それでも、人はいたほうがいいよね」

「でも、ありがとう」
 えっ?唐突に言われても分けがわからない。

26以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/12/01(火) 00:13:52.07 ID:m5pcPhV9

戸惑っているうちに和美ちゃんがぎゅっと抱きしめ、
「いろいろ、ありがとう」とポツリと、そうつぶやいた。
 分かっていたのだ。
「先生、残念だったね」
「でも私はウジウジしない。私は死ぬまで犯人と戦うわ」
 意を決したようだ。
「僕も和美ちゃんを死ぬまで守るよ」

 これってプロポーズ!?でもいいや。本人が気づいてなさそうだし。
「ねぇ、君の事、麻耶ちゃんって呼んでいい?」
「うん。和美ちゃん、いいよ」
「星がきれいだね」

 昨日と変わらない美しい夜空だった。

つづく

28以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/12/01(火) 00:15:56.53 ID:m5pcPhV9

つづくよ

29以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/12/01(火) 00:19:15.30 ID:m5pcPhV9

オヤスミダ

36以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/12/01(火) 18:09:32.00 ID:m5pcPhV9

「あの少女の電話は本当に間違い電話だったのですか?」
 石田は警視長に詰め寄った。

「だから言っただろう、石田くん。これは間違い電話なのだよ」
「しかし、こんなに事細かな内容の間違い電話って、しかも連絡してきた少女の声は真剣味そのものでした!」
「石田くん!もう君も昇進したのだ。いつまでも巡査ではないのだぞ」

 警視長が一喝する。まるでこの案件に関わりたくないかのように。
「確かに石田くんがこの町にこだわっとるのはわからなくもない。
 だがなぜ間違い電話にそこまでこだわるのだね。実際にその場所に行ってもガイシャはおろか、
 少女の言っていた荒らされた形跡も出てこないのだぞ。これをどうやって事件にできる?」

「す、すみません。警視長。私としたことがつい熱くなってしまって・・・」
「君のその警察官としての意識の高さ、そして体力、どれをとっても他の警察官の一つ上を行っておる。
 まさに警察官の鑑だ」
「ありがとうございます」

 警視長は一つ、咳払いをした。

「ただ、自分の思ったことをそのまま突っ走ってはイカン。あの事件とて、君のその性格のせいで起こってしまったんじゃないのかね?自分でもわかっているだろう」

 石田は何も言い返すことができず、乱れた服を整い直し、敬礼をしてそのまま部屋を立ち去った。
「あの性格が玉にキズなんだよなぁ・・・」
 そう警視長はポツリとつぶやいた。

38以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/12/01(火) 18:22:01.57 ID:m5pcPhV9

 次の日、いつもの美味しい朝食を食べつつ、和美ちゃんは駅の路線を確認していた。
 無事お祭りが成功したということでお父さんからおこづかいをもらったので、それを使って隣の地区で物品を買いに行くそうだ。

 ここの地区は山が障壁となって、隣の地区に行こうとしたら必然的に電車を使わなければならなくなってくるのだ。
 僕も久しぶりに外の空気を感じてみたかったので、楽しみだな。

「行ってらっしゃーい」
『行ってきまーす』
 駅は二時間に一本の超スローペースのため、駅まで走っていかなければならない。
 次は10時発の電車か。風にさらさらとなびく和美ちゃんのロングヘアーが素敵だ。
 やっぱりさらさらとした髪は映えるなぁ。
 そしておめかしをした服装で、チェックのスカートをなびかせる。
 そこから少し見える太ももがとても健康的な少女に演出する。

「私の体はは和美ちゃんに見られるためにできてませーん」
 目線に気がついていたようだ。よし、それなら!
「和美ちゃんの髪っていい香りがするよね~、かがせてっ!」

 飛び込むようにむんずと和美ちゃんの髪をつかむ。
「シャンプーおんなじなんだし、別に髪の香りは一緒じゃないの?」
 走りながらなので、体勢がきつくなる。
 僕はつかんでいた髪を離すと、和美ちゃんの体勢ががばっと崩れ、倒れる!
 それに合わせて僕も倒れる!
 幸い道が芝生だったから、汚れが無くて怪我もしなくて良かったけど。

「ごめんね・・・」
「いいよ、でもあと10分!」和美ちゃんは悲鳴を上げた。
 見ると9時50分。
「大丈夫」なぜかその言葉が僕の口からついて出た。
 僕は和美ちゃんの手をとって走りだした。

 駅まであと500m。がんばれ僕の体!

 駅についた。時計を見ると9時58分。なんとか間に合った。良かったよかった。
 そうして僕と和美ちゃんは電車に無事乗ることができたのである。

39以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/12/01(火) 18:22:52.25 ID:m5pcPhV9

「そういえば道具って、なんなの?」
「ああ、マジックの道具のことね。私実は昔っからマジックが大好きだったから。家に帰ってから見せてあげるわ」
 実に楽しみだ。ぜったいタネを明かしてやろう。

 カタンカタン、と二両編成の電車が走る。
 5分ぐらいの長い山のトンネルをくぐると、そこには開けた町が広がってきた。
「人口9000人のうち、8500人があっちの地区に住んでるからね。開けてるのは当たり前だわ」

「下ノ瀬、下ノ瀬」キキぃ。と電車が止まる。
 休日だからか、降りる人が多い気がした。
 駅を出ると、温泉街の看板が目につく。
「和美ちゃん。ここの地区って温泉が出るんだね」
「いや、こっち西沢地区もでるんだよ。でも十分な観光資源になりにくいから掘ってないだけ」
「じゃあ、何が観光資源なの?」
「何もないのよ」「何もない?」
「そう。何もない」
 これじゃ当たり前だが人が来ないだろう。まさに自然の要塞だ・・・。

 バスを使って20分のところにそのお店はあるという。
 僕達はバスに乗り込んだ。
 すでに暖房がついていて、とても暖かかった。満天の青空と白い雲。
 毎日がこんなに綺麗な空だったらいいのに。僕は空を見ながらそんなことを考えていた。

 バス停に降りた時にはもう12時。お昼の時間だ。
 僕らは近所のコンビニでおにぎりを2つづつ買った。
 僕は明太子、和美ちゃんはシーマヨだ。近所の噴水が出ている広場で食べることとなった。

「ここから歩いて2・3分ってところね」

 マガモが噴水の水面をゆらりゆらりと泳いでいた。

「でもさ、」

「先生の話はさ、しないでおこうよ。周りの人に聞かれたら物騒だし、さ」

「うん・・・」

 しぶしぶと和美ちゃんは頷いた。
 もちろん僕もその気持ちはわかっている。
 犯人を見つけたい気持ち、自分が消えてしまうんじゃないかという気持ち、様々な気持ちが入り交じっている事は。

 冬だなぁ・・・。

40以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/12/01(火) 18:24:11.44 ID:m5pcPhV9


 そういうことで僕達は無事にマジック専門店にたどり着くことができた。
 しかし、特に特徴のない商店だ。若干寂れている感じも他の店とは変わらない。
 看板には何も書かれていない。ぱっと見閉店しているようにも見える。
「おもしろいお店」と和美ちゃんは言っていたが・・・はて?

 カランカラーン、と軽いドアベルの音が鳴り響く。
 見るからにがらんどうだ。あるのは真ん中に無造作に配置されている長机と椅子だけ。

「おじさーん、いるー?」
 中には誰もいませんよ?

 すると、足音がどこからともなく聞こえてきた。
 上か、奥か? 
 ・・・下だった。

 ちょうどテーブルの下が入り口になっているらしい。がぱっと扉が開くと床から手で「こっちへ来い」と催促された。
 机をどかし、下に入る。和美ちゃんは鼻歌を歌いながら軽々と入っていった。

 はしごで降りてみると、鉄の螺旋階段になっていた。風が下からピュウピュウと吹き上げている。
 相当深いところまであるとみた。
 下を除くと闇、コンクリート壁に等間隔でにランタンが引っ掛けられている。
 前には和美ちゃんと、その店主らしき人が降りている。暗くて素性がわからない・・。

 まだまだ続く・・・一体どこまで下がるんだ・・・。

 ぺちゃくちゃと和美ちゃんとその人が話しているようだ。 

 ・・・ぼんやりとした光が見えた。もうすぐか。

 和美ちゃんらが中に入っていく。僕も入らなきゃ。

41以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/12/01(火) 18:27:15.08 ID:m5pcPhV9

 ドアノブを開き、数歩歩くと奥から店主と見られる男性が詰め寄ってきた。
「君は、麻耶さんかね」見た目は60代、おじいさんだ。

「は、はぁ」

 部屋は見た所”マジックのタネ”屋さんではない。
 よくわからない数値をたたき出している機械や、派手なビープ音を奏でている箱。
 科学者と言ったほうが良いのではないだろうか。
 とりあえず和美ちゃんがウソを付いているのは分かった。

「和美ちゃんの友人だそうな」
「ええ。よく仲良くさせてもらっています」そう言うと、おじいさんは笑顔になった。

「お茶はいらんかね?」小汚いカップになみなみとウーロン茶がついである。手に取るのはやめとこう。

「あのぅ、ここってなんですか?」

 和美ちゃんが割って入ってきた。
「だから、マジックのタネのお店だよ!」
「しらばっくれるのはやめなよ、ここはどう見てもそんなお店じゃないよ!」

「?」
「もう帰ろう。」和美ちゃんの手を引っ張る。
 ここから出ないとやばそうだ。

「ちょっと待ってくれ、麻耶さん」
「なんですか?」何を言っているんだろうか。

 おじいさんが急に頭を抱え込む。僕も和美ちゃんも怪訝そうな顔をした。

「和美ちゃん、ちょっと外に出ていてくれ」
 鍵をかけ、ふぅと息をつくと、僕に話し始めた。 

42以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/12/01(火) 19:09:44.20 ID:m5pcPhV9

「1985年。わたしは一人の少女を生み出した。もちろん生物学的な生み出し、ではない。当時のわたしの知識、経験、そして科学的好奇心から創りだされたロボットだ。機種名は”KAZMI”。もう分かるだろう?」

 そんなフィクション、あるわけがない。ちゃんちゃらおかしいお伽話だ。

「脳はアメリカで研究されていたAIチップをパクってきた。皮膚、臓器は全部当時の最先端技術の人工皮膚だよ」

「わたしは出来上がったKAZMIを溺愛し、親子のような関係だった。しかし本物の親子にはなれなかった。所詮は創造主だったのだ」

「だからわたしはAIチップをコピーし、親のプログラムを作り、親も生み出し、家を買い、ペットの犬までも買った。これで本当の家族だ!当然わたしとの関係も消そうと思った。だが、最後のわたしのKAZMIへの愛情がそれをさせなかった」

「彼女にとってわたしは今はマジックのタネ屋さんとして存在しているわけだ」

 笑うしかなかった。あんなに感情豊かな和美ちゃんが、ロボットだなんて、
 あんな真面目で可愛い和美ちゃんが・・そんな・・・・バカな・・・

「ウソを言うのもいい加減にして下さい!」

ぱさり、と冊子を手渡した。 何であるかは理解できる。
しかし、読みたくなかった。

「ちょっと前、君の学校の担任が消えただろう?」

「なんでそのことを知っているんですか!?」

「彼女には弱点があった。その弱点がこの事件を引き起こしてしまったのだ」

「その弱点は!?」

43以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/12/01(火) 19:16:00.53 ID:m5pcPhV9

「彼女の精神はまだ不安定なのだよ、しかし、君の前にはそれを見せなかったようだがね」

「どういうことなの?」

「彼女は”生まれて”すぐに、とある謎のプログラムエラーが発生した。
 どこを探しても原因不明、体には異常がなかったので放っておくことにした」
「彼女は日増しにわたしに対して”隠し事”をしてきた。しかし、それは何であるのかはある程度は予測できた」

おじいさんはポケットから謎の小さな黒い塊を取り出した。
「わたしは”それ”を抑制するための電子チップを脳に投与し始めた。しかし、3週間で彼女のAIの成長スピードにチップが追いつけなくなった。だからわたしは定期的に彼女にこさせるように仕向け続けていた」

「成長・・・か」

「ここから本題だ。そして今回の事件。その日付は投与した翌日なのだ」

 僕は頭をこづかれた気分になった。あれっ?どうして・・・?

「このことを知っていて、外部に教えている内通者がいる。わたしの研究の内容を知っている奴がいるのだ」
 いとも簡単におじいさんは答えた。
 しかし、その答えは非常に残酷な意味合いを持つ。
 ・・・外部はなにかこの案件に意思・考えを持っているということだ。

「その後に不思議に思って彼女のAIを調べてみたら、なんとびっくり、チップが取り外されて、代わりに新しいチップがついていた」
「もちろん、今は取り外しているのだがね」

「そこで質問だ。君はそういった彼女と外部との接触を見たことはあるか?」
 もちろん、あるわけがない。ありえないのだ。

「な、何を言い出すんですか!僕じゃないです!絶対に!」
 僕は感情のあまり勢い良く立ち上がってしまった。

「ああ、もちろん。君じゃないだろう。だが、気をつけていてくれたまえ。ヘタすると君も、消える羽目になるのだよ」

「そして忠告だが、くれぐれもロボットだということを彼女には伝えんでほしい。わたしからの最期の親としてのお願いでもある」

44以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/12/01(火) 19:17:49.10 ID:m5pcPhV9

 ドアからどんどん、という音。待たせすぎたか。

 外に出た時にはもう夕方、夜に差し掛かっていた。

「マジックのお店たのしかったわねー」和美ちゃんは朗らかにそういった。
 これも、プログラムなんだよなぁ・・・。

「そうだね」そう、答えるしかなかった。
 彼女はわるくない。悪いのは外部の人間だ。”生み出した”人間だ。
 なのに、なぜ、なぜ彼女に対してなんとも言えない気持ちになってしまうのだろうか。

 目と目が合わせられない。

 橋の上で二人、微妙な関係なのは明らかだった。

 ごめん、なさい。

 今の僕の目は彼女から見れば、とても濁って淀んだ目をしているだろう。

 これが僕の本性なんだ。これこそ、僕なんだ。

「麻耶ちゃん、今日の夕飯はなんだろねー?」

 『パシッ』
 発作的に彼女の頬を打ってしまった。ヒリヒリとした感触が手に伝わる。
 やってしまったのだ。
 もう、これで、平穏な日常”ごっこ”は終わりだ。
 やはりここでもダメだったのだ。 

「え・・あ・・・」

 どうすればいいんだ! もうわからないよ!! どうしてどうして、どいつもこいつもこんなにも自分勝手なんだ!

 こみ上げてくる悲しい思いを抑えきれずに嗚咽を漏らしてしまった。

「だ、大丈夫?」彼女はオロオロしている。
 叩かれた意味も知らないからっていい気なもんだ。あたりまえか。

「と、とりあえず家に帰ろう?ね?寒いしさ。もう私先に行っちゃうよ!」
 確かに寒い。もう12月にさしかかろうとしているこんな時に、一人でいるのは命に関わるだろう。
 とりあえず大きな感情は収まったので、僕はぺたぺたと和美ちゃんの後をついていった。

46以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/12/01(火) 19:28:31.87 ID:m5pcPhV9

 数日後、石田は異動届を出した。
 この案件があまりにも怪しいという勘からだった。
 案件のためなら、身を投げ出しても良いという正義感から彼をそうさせた。
 
 絶対に犯人はいる。あの少女は本当に危機を感じ、通報したのだ。
 
 幸いにも石田は事件の捜査に呼ばれていなかったので、上司からは寂しがられたがすぐに受理された。
 これも信頼の賜物なのだろうか。
 と、いうことで石田は坂木地区派出所の配属となったのだった。

 25歳、独身。とてつもなく朴訥な男であった。

47以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/12/01(火) 19:29:08.18 ID:m5pcPhV9

 カタンコトンカタンコトン・・・
 線路の反響が闇へと消えてゆく。
 坂木地区に帰ってきたのだ。
 田舎だなぁ・・・。

「今夜の夕飯な何かしらー?」
 和美ちゃんは食い意地が貼ってるなぁ・・・。

 坂から見えた夜景は、闇だった。

 家は電気がついていて、帰るのを待ち構えているようだった。

「帰ってきたね」
「たっだいまー」和美ちゃんがドアを開けていた。
 僕は郵便物を取ってくるか。

49以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/12/01(火) 19:31:59.16 ID:m5pcPhV9

なんだこれは・・・
 なぜ「今日の夕刊」が入っていたままなんだ!
 明かりがついていて、いるはずなのに!

 和美ちゃんが飛び出してきた。
 感情は、ないていた。
 ほら、やっぱり人間じゃないか。
 ちゃんとした人間なんだよ。

「麻耶ちゃん、麻耶ちゃんは生きてるよね・・・・。ううっ・・・」
「生きてる。和美ちゃんが死ぬまで僕は死なないよ」


「ここから逃げよう。もうバレているんだ」

「逃げたらまた追いつかれてしまうかもだよ!」
「その時はその時。諦めちゃダメなんだ。諦めなきゃ生きれるんだ!」

「生きなきゃならないんだ!僕のためにも、そして君のためにも!」

 和美ちゃんが殺した可能性なんてことはあえて考えなかった。

 和美ちゃんのお父さん、お母さん。
 ありがとう。そして、さようなら。

 そして、僕たちは、逃げた。
 希望を見つけるために。

 第一部 完

50以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/12/01(火) 19:32:58.40 ID:m5pcPhV9

>>48
さすがに丸パクリは嫌だったんじゃないかと

51以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/12/01(火) 19:37:27.83 ID:m5pcPhV9

1990年12月10日 午後4時52分通達。
Z県田沼郡川本町坂木地区にて大規模な爆発発生。
半径九十キロメートルが粉塵と化している状態。
死者・損害不明。

緊急報告。
爆発直前に同地区にて小規模の地震が発生、それとの関連性も指摘されるが、爆発原因不明。

大都市圏への影響も心配される。

2020年12月10日 午後4時52分。
あの大爆発から30年を経過していた今、今もなお遺族の深い悲しみは取り除かれていない。
死者、行方不明者6万人という大惨事は、その後の日本の有り様を大きく変えた事件でもある。
現在、爆心地から30キロメートルは立入禁止となっている。
その地に足を踏むことが出来るのは、一体いつになるのであろうか。

53以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/12/01(火) 19:54:32.14 ID:m5pcPhV9

特例「Q12」による空白地帯、通称「旧爆区域」。


そこには誰もいなかった。
いや、無かったと言ったほうが正しいかもしれない。
そこには吹き荒れる砂けむりのみ、あった。
いや、それもおかしい。

なぜなら、そこには棺桶があったからだ。
丸い楕円の棺桶。弥生時代を彷彿とさせるその図形は、
地面にまるで前からあったかのようにぽつり、とあった。

しかし、弥生時代にはないものが入ってあった。

サイボーグの少女である。

第二章「2020年 秋」

55以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/12/01(火) 20:02:54.75 ID:m5pcPhV9

旧爆区域、監視のプレハブ小屋に男が二人いた。
一人は痩せて、もう一人は太っている、なかなか対照的な姿の2人だった。

「こんな良いバイトあるか?泊まり込みで
誰も人が来ない所で人がいるかどうか確認するだけの作業で、
めちゃくそ給料がもらえるんだぜ?」

ふとっちょが鼻歌交じりに話かけた。

「でも暇ですよね。なんにもないですよ。通信機能もつかえないし圏外だし」
痩せた男が、小屋に設置してある安物ベットでごろんと横になる。

「そういえばみました?生体反応がここんところ数日前からあるんですよ」
「おかしいな。迷い猫かな」

怪訝そうな顔をする。外は猫の子一匹通さない厳重な警備なはずなのに、おかしい・・。
「とりあえず数日経っても生体反応があったら上に連絡だけしておこう」

広域サーモグラフィを起動しつづけて15日目。本来は電力上いけないらしいが、事が事だ。

「生体反応あり、まだ生きているようだ。しかし初期発見時からなにも移動していない、と」
業務メモにまとめておいておく。上が来た際にこれを提出しておけばいいだろう。

「上はいつ来るんですかね。もう来てもおかしくないのに」
人がいるかどうか捜索をしてきて疲れているらしい。痩せた男は体についた砂を取り除く。

顔を見ればめぼしいものがないのが分かった。
あいつはすぐに表情に出るから分かりやすい。

「ああ、そうだな」

56以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/12/01(火) 20:04:30.19 ID:m5pcPhV9

少女は、立ち上がった。
少女は、立ち上がり、一歩目を歩いた。
少女は、足を崩し、倒れた。
少女は、まるで生まれたての子鹿のごとく。
少女は、倒れた。
少女は、また、立ち上がった。
少女は、何回かその行動を繰り返した後、一歩目を踏み出すことに成功した。

一歩目、二歩目、三歩目、・・・。
もちろん、杖など何もない状態だ。
服は裂け、ボロボロになりながらも這いつくばり、また立って、歩き始める。

少女は、求めていたのである。
少女の、最初で最後で最愛の友人、「崎田麻耶」を。

57以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/12/01(火) 20:05:05.57 ID:m5pcPhV9

秘密結社レゴリス、地下一階「PCの間」

暗闇の中、怪しげなコンピューターが所狭しと置かれている。
ビープ音が至るところで鳴り続けている中、ハゲで小太りの男が、その暗闇の中央で一人、
怪しげに光る液晶と対峙して座っていた。

突如として男はキーボードの叩くスピードをあげた。これは・・・、まさか!

「生体反応をついに表しました、チーフ!例の少女です!長年ここに座り続けたかいがありましたよ!」
「そうか、よかった。コレで計画は遂行できそうだ。君の存在意義が今わかったよ」

機械上で女性が皮肉さいっぱいで答える。
小太りの男は苦笑いをした。たしかに今まで何もしてこれなかったもんなあ・・・。

これで奴らに対抗できる、かもしれない。
いや、できる。絶対にこの戦い、レゴリスが勝ってみせる!

男は暗闇の天井を見上げ、ガッツポーズをした。

58以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/12/01(火) 20:08:35.11 ID:m5pcPhV9

「人類再製、か。人間が再び1になる時が来たのだな」
 一人の白衣を着た老紳士が暗闇の中央でボロボロのソファーに座っていた。

 隣にはもたれかかるようにしてタキシード姿の青年が立っている。
 影で顔はわからないが、姿から見てぱっとみ10代前半に見える。
 しかし醸しだす空気は、10代前半のそれではなかった。

「もう我々は科学、医療、工業、全てにおいて成熟してきました。
すなわち我々はどこかでストップさせないと、進化の最終、すなわち滅亡へとたどり着いてしまうのです」

「左様。そして我々は滅亡への道を歩み始めている。地球温暖化、フロンガス、砂漠化、
 そして一歩間違えば人類の滅亡、核の開発だ。ものの見事に自然の摂理通りにことが進んでおる。
 しかし、我々は自然の摂理なんかによって滅びとうない」

「それゆえ、我々はなんとしてでも人類再製をしなければならんのだ」

 すっくと老紳士が立ち上がる。
 それと同時にタキシードの青年が叫んだ。

「さあ、始めよう!我らの革命、我らの正義を貫くために!」
 その声は闇へと消えていく。

 と、同時に万歳の声が反響し始めた。
 照明をつけると、そこには何百人もの群衆が立ち上がって万歳の声をあげていた。

 ニヤリ、と老紳士は笑った。

59以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/12/01(火) 20:09:35.75 ID:m5pcPhV9

「へい兄弟、可愛いお姫様はまだおねんね中か?」
「相当ボロボロで疲れていたようだからな、起きるのはもうちょっとかかりそうだな」

ベッドには少女が眠っていた。
実は眠るのではなく、生命維持装置がビジー状態になっているだけなのだが、もちろん彼らは知るはずもない。

「なあ、名前は何にする?」
細い男が聞く。
「やめろ、情が移る。情が移ったらろくな目には合わん」
否定的な発言をする太っちょ。
「その言い草は過去に有ったっていう節だな?」
「余計な詮索癖はやめろ。命に関わるぞ」
いつになく真剣な表情で太っちょが言った。

沈黙が続く。

痩せた男が上を見上げ、ポツリと言った。
「なぁ、なんで俺がこの仕事に入ったか知っているか?」
「余計な詮索はしない癖でな。そんなこと思ったことはねえ」
太っちょは観察記録を引っ張りだす。まるでそんなことを聞きたくないかのごとく。
「そう、か」
痩せた男は苦笑する。

「なあコーヒー、持ってこようか?」
「ああ、頼む」
太っちょのコップはプラスチックの可愛いイラストの入ったやつだ。
なぜそれを愛用しているのか聞きたかったのだが、無理そうだ。

コーヒーの香りがプレハブ小屋の中に充満する。

60以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/12/01(火) 20:11:08.73 ID:m5pcPhV9

2020年。世界は國家連合による支配にさらされていた。
国家というスタンスはとうに消滅していた。もちろん領土、宗教などの争いが起きるはずもない。
平等なのである。
人々はユートピアの実現と喜び、國家連合を迎え受けた。

しかし、本当は違っていた。
なぜなら國家連合は本当の意味での平等であったからだ。
國家連合のトップ、総指揮、人々の管理は人工全能神「ゼウス」によって執り行われた。
完全正確な計算により、仕事、レジャー、ましてや結婚・今後の人生の歩み方までも人々に電子情報として伝え、指揮した。
しかし、全能神であるはずのゼウスは一つ、計算できないものがあった。
人のココロである。

そういった機械的な國家連合の支配によって二つの人間が生まれた。
ゼウスを妄信し、ゼウスと一体になり、そしてゼウスの奴隷となる人間。
そして、ゼウスに対して反抗する人間。

この章はそうした反抗する人たちをピックアップした物語である。

61以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/12/01(火) 20:13:35.64 ID:m5pcPhV9

「散れっ」女性がマイク越しで伝える、
と同時に迷彩柄の数人がプレハブ小屋へとにじり寄る。
それぞれ銃を片手にして。
ドアに怪しげな装置を設置する。
迷彩服たちの一人が手をあげる。
ドアは爆発した。粉塵と化し、跡形もなく砕け散った。 

「おい、おい!!」太っちょが叫ぶ!しかしその声は血の海へと反響していった。
痩せ男も反射的に駆けつける。しかし時すでに遅し。銃声が聞こえる。
2つの血の池が出来上がった。
2つ並んだコーヒーカップは、もう二度と使われることがないだろう。
この間、2分半。

「でもやっぱり殺人ですよこれ」小太りが悲痛な目で女性に訴えた。
「殺人ではなくて強制解雇。何度も言っている通り彼らはロボット。言い換えれば奴隷身分なのよ。
我々は彼らを開放してあげたにすぎないの。きちんと後で直しておくから大丈夫、記憶と共にね」



これより先はない どうやら受験の時期に入ってやめたっぽい 

63以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/12/01(火) 20:24:31.95 ID:m5pcPhV9

「た、確かに、そうですけど」
『ゴスッ』
納得のいかない小太りに女性は真顔で鉄拳を食らわせた。
一見して細身で低身長なか弱い出で立ちだが、音から察するに中身は違うようだ。

「いい加減にしなさい」
「は、はひ・・・」
鼻血を垂れ流しながら敬礼をする小太り。



64以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2015/12/01(火) 20:27:05.86 ID:m5pcPhV9

続きは小説家目指してる人かいて


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