10 :短編小説『春を告げる声 ヘリテージ財団にて』:2025/05/02(金) 21:26:41.61 ID:gtmBPElx## 短編小説『春を告げる声 ヘリテージ財団にて』
ワシントンDCのヘリテージ財団の大会議室は、熱気に満ちていた。壇上には、緊張と興奮の入り混じった表情の三人の若い女性が並んでいる。イ・ソヨン、チョン・ジウ、チェ・ソヒョン。いずれも在日韓国人三世の大学院生だ。彼女たちが今、世界に向けて発信しようとしている言葉は、長らく日本の在日社会でタブーとされてきた歴史認識に、新たな光を当てるものだった。
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ソヨンがゆっくりと口を開いた。「私たちの祖父母の世代は、1948年4月3日に起こった済州島四・三事件の混乱の中、祖国を離れざるを得ませんでした。南労党に協力したと疑われた人々は、疑わしきを厳罰に処す李承晩政権による激しい弾圧から逃れるため、多くの危険を冒して日本へと密航したと伝えられています。私たち三人は、その歴史の傷跡を深く胸に刻みながら生きてきました。」
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ジウが言葉を引き継いだ。「私たちは、長年、済州島四・三事件の真相究明と、犠牲者の方々への正当な補償を求めてきました。その一環として、私たちは韓国政府を相手取り、ソウルで裁判を起こしました。しかし、その過程で、私たちはある疑問に強く突き動かされるようになったのです。なぜ、故郷を追われた済州島の人々は、共産党が支配する中国でも、金日成が率いる北朝鮮でも、国民党が統治する台湾でもなく、かつての宗主国であった日本を目指したのでしょうか。」
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ソヨンの声が、わずかに熱を帯びた。「ヘリテージ財団の招きでこのアメリカの地を訪れ、様々な情報に触れる中で、私たちは気づきました。日本の植民地支配による近代化を、一面的に邪悪な帝国主義と断じるイデオロギーの欺瞞に。李承晩大統領による抑圧という現実を前にした済州島の人々は、本能的に理解していたのではないでしょうか。漢民族至上主義の中華思想に固執する国々では、自分たちの未来はないと。だからこそ、彼らは、かつての宗主国でありながらも、新たな可能性を秘めた日本に、一縷の望みを託したのだと。」
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ジウは、日本の朝鮮半島政策の歴史的経緯について解説を始めた。「日本は当初、福沢諭吉先生の指導を受けた金玉均を中心とする独立党を支援し、1884年の甲申政変クーデターを画策しました。清朝に盲従しようとする事大党を排除し、朝鮮人自身の手による近代国家建設を目指したのです。しかし、クーデターは失敗に終わり、事大党が勢力を盛り返したことで、日本は対朝鮮政策の軌道修正を余儀なくされました。その結果として、朝鮮に対する戦前の植民地支配が、複雑な歴史的経緯を経て実施に移されたのです。」
11 :短編小説『春を告げる声 ヘリテージ財団にて』:2025/05/02(金) 21:40:50.99 ID:gtmBPElxhttps://i.postimg.cc/dQbQWG24/Spellai-4-3-3-4.jpg
最後に、ソヒョンが静かに、しかし力強く語り始めた。「在日社会の民団も、総連も、そして旧統一協会も、長らく日本の朝鮮半島に対する植民地支配を、一方的に邪悪な帝国主義と断じてきました。私たちも、そのように教えられて育ちました。しかし、もし李氏朝鮮が清朝の属国であり続けたらどうなっていたでしょうか。私たちは、中国共産党による三千万人もの餓死者を出した大躍進政策や、二千万人もの粛清を生んだ文化大革命に巻き込まれていたかもしれません。北朝鮮を見れば、その悲惨な現実を想像することは難しくありません。」
会場は静まり返り、三人の言葉に聴衆は息を呑んでいた。これまで語られることのなかった、在日韓国人三世の世代からの率直な歴史認識の表明は、多くの人々の心を揺さぶった。
ソヨンが、わずかに声を震わせながら続けた。「私たちは、過去の過ちを美化しようとしているのではありません。日本の植民地支配は、朝鮮半島の人々に多大な苦痛を与えた事実は否定できません。しかし、歴史は一面的な解釈だけでは捉えられない複雑なものです。私たちは、祖父母の世代が、なぜ日本を選んだのか、その背景にあった当時の国際情勢や、各国の政治体制、そして何よりも、人々の生きたいという強い願いに、真摯に向き合いたいのです。」
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ジウは、壇上を見渡しながら言った。「私たちは、過去の歴史を直視し、多角的な視点から検証することで、真の和解と未来志向の関係を築きたいと願っています。そのためには、タブーを恐れず、率直な対話が必要です。私たちは、在日社会においても、日本と韓国の間でも、より成熟した議論が交わされることを切に望んでいます。」
ソヒョンは、決意を込めた眼差しで聴衆を見つめた。「私たちの声は、もしかしたら少数派かもしれません。しかし、私たちは信じています。真実は、いつか必ず明らかになると。そして、私たちがこうして声を上げることによって、凍てついた大地に、かすかな春の息吹を届けることができると。」
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彼女たちの言葉が終わると同時に、会場は割れんばかりの大きな拍手に包まれた。インターコンチネンタル・ホテルの重厚な壁が、その熱気に共鳴しているかのようだった。それは、抑圧された歴史認識からの解放を求める、若い世代の力強い叫びだった。
数日後、ワシントンDCの喧騒から離れた静かなカフェで、ソヨン、ジウ、ソヒョンは、ヘリテージ財団での講演の反響について語り合っていた。
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「想像以上の反響だったね」と、ソヨンが感慨深げに言った。「私たちの世代にも、同じように感じていた人がたくさんいたんだと分かった。」
ジウは頷いた。「日本のメディアからの取材も多かったわ。もちろん、批判的な意見もあったけれど、私たちの真意を理解しようとしてくれる人もいた。」
ソヒョンは、少し疲れた表情を見せながらも、どこか晴れやかだった。「民団や総連からも、色々な反応があったみたい。でも、私たちの世代の声は、無視できなくなってきているはずよ。」
三人は、それぞれの胸に去来する様々な思いを感じながら、コーヒーを啜った。彼女たちの行動は、在日社会に小さな波紋を広げ始めていた。長年、語られることのなかった歴史の断片が、彼女たちの勇気ある発言によって、少しずつ日の光を浴び始めている。
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12 :短編小説『春を告げる声 ヘリテージ財団にて』:2025/05/02(金) 21:45:28.78 ID:gtmBPElxhttps://i.postimg.cc/1z4hsDfN/1746187420525.jpg
彼女たちの言葉が終わると同時に、会場は割れんばかりの大きな拍手に包まれた。インターコンチネンタル・ホテルの重厚な壁が、その熱気に共鳴しているかのようだった。それは、抑圧された歴史認識からの解放を求める、若い世代の力強い叫びだった。
数日後、ワシントンDCの喧騒から離れた静かなカフェで、ソヨン、ジウ、ソヒョンは、ヘリテージ財団での講演の反響について語り合っていた。
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「想像以上の反響だったね」と、ソヨンが感慨深げに言った。「私たちの世代にも、同じように感じていた人がたくさんいたんだと分かった。」
ジウは頷いた。「日本のメディアからの取材も多かったわ。もちろん、批判的な意見もあったけれど、私たちの真意を理解しようとしてくれる人もいた。」
ソヒョンは、少し疲れた表情を見せながらも、どこか晴れやかだった。「民団や総連からも、色々な反応があったみたい。でも、私たちの世代の声は、無視できなくなってきているはずよ。」
三人は、それぞれの胸に去来する様々な思いを感じながら、コーヒーを啜った。彼女たちの行動は、在日社会に小さな波紋を広げ始めていた。長年、語られることのなかった歴史の断片が、彼女たちの勇気ある発言によって、少しずつ日の光を浴び始めている。
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ソヨンは、窓の外のポトマック川の流れを見つめながら言った。「私たちの裁判は、まだ始まったばかり。韓国政府が、私たちの声に耳を傾けてくれるかどうかは分からない。でも、私たちは諦めない。祖父母の世代が、なぜ故郷を捨て、異国の地に根を下ろさざるを得なかったのか。その真実を、私たちは未来の世代に伝えたい。」
ジウは、力強く頷いた。「そして、日本と韓国が、過去の遺恨を乗り越え、真の友好関係を築くためには、お互いの歴史を深く理解し、尊重することが不可欠だと思う。私たちの活動が、その一助となれば嬉しい。」
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ソヒョンは、二人の顔を見渡しながら、柔らかな微笑みを浮かべた。「私たちは、まだ若い。これから、多くの困難に直面するかもしれない。でも、私たちは三人で力を合わせれば、きっと乗り越えられる。凍てついた大地にも、必ず春は訪れると信じているから。」
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ワシントンの春の陽光が、カフェの窓から差し込み、三人の顔を優しく照らした。彼女たちの瞳には、未来への希望と、揺るぎない決意が宿っていた。ヘリテージ財団での彼女たちの声は、確かに、新しい時代の春を告げる、力強い一歩だったのだ。
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