「嘘でしょう」その言葉は叫びのように車内に響き、悪夢の始まりを感じ得ない。
「どうしょう」車内に繰り返される言葉は「どうしょう」の言葉だった。
「じゃまだ、ボケ」と言った車だと家族はすぐに気付いた。それは獣のように
荒々しく家族が乗った車をあおり、恐怖心が車内に充満した。
「どうして」と父親はつぶやく。「あれでか」信じられないと思った。しかし、
それは現実だった。けたたましいエンジン音と車が軋み、衝突しそうな運転を
する車、そのとき父親は昔見た映画「激突」を思いだした。心で如何と思った。
そして、車内の家族の動揺と不安な姿を見て、あの時の言葉「じゃまだ、ボケ」
に秘められた想像すら出来ない人間に潜む憎悪を感じざるを得なかった。
逃れられない運命に飲み込まれた家族はその恐怖を振り払うかのように
高速道路を走りだした。母親は「どうなるの」と叫び「しっかりしろ」と父親は
強く言い放った。
旋律のメロディーが家族に襲い掛かった。車がきしみ、心が張り裂けるように
生死のはざまに導かれるように家族の心は震え上がった。
狙われた家族は運命共同体がなんであるかを感じ合った。一つの恐怖の中で
家族という切っても切り離せない運命共同体の心が共鳴した瞬間だった。