■戦争映画の名作を強く意識『トップをねらえ!』
庵野監督のアニメ初監督作品『トップをねらえ!』(1988年)は、そのタイトルからも分かるように『トップガン』と『エースをねらえ!』の要素を組み合わせた作品だ。しかしその根底には、昭和を代表する名監督・岡本喜八さんへの深い敬意が込められていた。
庵野監督は『アニメージュ』1997年1月号で、“僕が生涯いちばん何度も観た映画”として岡本監督の『激動の昭和史 沖縄決戦』(1971年)を挙げているが、その視聴回数はなんと100回以上だという。
その岡本監督の演出をオマージュとして取り入れたのが『トップをねらえ!』だった。司令部の緊迫感と戦いのテンポ、被害艦艇数のテロップ表示などは『沖縄決戦』を強く意識したものだったという。
なかでも5話「お願い!!愛に時間を!」にて、宇宙軍情報部に緊急でかかってきた「敵の数が多すぎて宇宙が黒く見えない 敵が七分で黒が三分 いいか 敵が七分に黒が三分だ!」というセリフは、『沖縄決戦』の名セリフ「船が七分に海が三分 分かったか 船が七分に海が三分だ!」のオマージュになっている。
沖縄・嘉手納に迫る米艦隊の圧倒的な恐怖を表現した『沖縄決戦』のセリフが、『トップをねらえ!』で地球に迫る宇宙怪獣の絶望的な状況に見事に重ねられていた。