『秘密集会タントラ』(ひみつしゅうえタントラ、Guhyasamāja tantra、グヒャサマージャ・タントラ)とは、仏教の後期密教経典群、いわゆる無上瑜伽タントラに分類される経典の一つである。
チベット仏教の最大宗派でもあるゲルク派では、宗祖であるツォンカパ大師がチベットにおいて厳しい戒律を復興すると共に、この『秘密集会タントラ』を最高の密経典として評価したこともあって、とりわけ重視されている。加えて、ネパールでは「九法宝典」(Navagrantha) の一つに数えられている[6]。
その内容は、下述するようにそれまでの仏教の戒律をことごとく破棄するかのごとくであり、そのため非常に衝撃的なものであるかのような印象を伴い、その一部は反社会的ですらあるとみなされている。また、密教の側でも貪・瞋・痴の三毒(三煩悩)も悟りへの原動力とみなし、それぞれが有効性を持つとする立場を一貫させていることから[注釈 1]、論理的な説明や弁解を行われることはなかった[10]。
かつてのチベットにおいても同様の問題がおこり、そのためツォンカパ大師や当時の大成就者等は、後代に誤った訳に基づく安易な実践に進むことがないように、前段階として戒律や顕教といった枷をはめたり、書かれていることをそのまま実際の行動に移さず、あくまでも観想でのみ行うよう戒めるといった安全策を併用して、密教を学ぶために最低限必要な三昧耶戒の厳守と、無上瑜伽タントラの正しい理解に基づく様々な制限を設ける必要が生じた。