起訴状などによると、ケリー元役員はゴーン元会長、大沼氏と共謀し、10~17年度の元会長の報酬は計約170億円だったのに、高額報酬に対する批判を懸念して一部の支払いを延期。有価証券報告書(有報)には各年度に支払った計約79億円のみを記載し、残りの約91億円は退任後に支払う「未払い報酬」にして開示を免れたとされた。
検察側は、大沼氏が報酬計算書やゴーン元会長と交わした合意文書で未払い報酬の累積額を1円単位で管理したと主張。ケリー元役員は未払い報酬を別名目で支払う方法を検討し、退任後に顧問料などで払う契約書を作成したり、自社株を1円で買えるような「新株予約権」での支払いを提案したりしたと指摘した。
一方、ケリー元役員は初公判から一貫して無罪を主張した。弁護側は、有報で開示した報酬以外に支払いの期限や条件が確定した報酬は存在しないと反論した。ケリー元役員が作成した契約書は未払い報酬の後払いではなく、元会長が退任後に提供する業務への正当な対価だとも訴えた。
弁護側はさらに、仮に記載されていない未払い報酬があったとしても、刑事罰が科される「虚偽記載」ではなく、行政処分の対象にとどまる「不記載」にすぎないと主張した。
検察と司法取引し、捜査協力の見返りに不起訴になった大沼氏らの証言の信用性も争点となった。弁護側は「合意文書をケリー元役員に見せた」などという大沼証言は虚偽で、無関係な第三者を陥れる「引き込み」の典型例だと訴えた。検察側は大沼証言は客観証拠とも矛盾せず、信用性は高いと指摘した。(金子和史、根津弥)
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