早野氏の上記の著書には,上記の4つの批判論文が投稿され著者に応答が求められたことについての記述がない。それにもかかわらず,著書の中で宮崎・早野論文について記述している部分の最後に,「「論文についてのやりとりは論文上でおこなうものだ」というのが僕の科学者としての姿勢です。科学とは別の土俵に,上がるつもりはないのです。」と書かれている。論文で批判されたことを隠し,あたかも自分は科学の規範を守っているかのようにふるまっている。
早野氏は,宮崎・早野論文が雑誌に掲載されたとき,Twitter上で,論文のダウンロード数が数万にのぼりさらに増え続けていることを宣伝していた。マートンは,無私性を論ずる章の中で次のように書いている。「科学者と非専門家の関係が重要になるにつれて,科学の規範から逃れようとする動機が働くことになる。専門家としての権威の悪用と偽科学の創造は,その任にふさわしい同僚によるコントロール機能の効果がなくなることから始まる。」マートンはまた,科学の規範を破壊する者たちが,あたかも科学の規範の擁護者であるかのようにふるまうこともエッセーの中で指摘している。約80年前に書かれた文章であるが,予見性に富み,まさに,宮崎・早野論文の核心を突く言葉である。
(続)