――1998年の法改正は日銀と政治とどちらの側が主導したのでしょうか。
日銀法改正は政治主導で行われたものだ。日銀法改正など当時の金融改革の背景には、バブル生成・崩壊の原因は金融政策や金融行政の誤りにあるとの国民的理解があった。政策委員会のスリーピングボード化などの日銀自身の問題も多く、日銀主導での改革はあり得なかった。
――政府は人事を通じて日銀の金融政策に事実上介入しているように見えます。
内閣が審議委員を任命することは、民主主義下の中央銀行では必然であり、それ自体は問題ではない。独立性を担保するため、日銀の政策委員は意に反して解任されることはないようになっている。
加えて、政府が短期的な観点からインフレ的な政策を取ろうとすることを避けるために、新日銀法では審議委員の任期を衆議院議員の任期である4年よりも長い5年とし、過度に金融政策が変動しないよう、審議委員の交代が徐々に行われるようにしている。法律の枠組み自体に問題があるとは思わない。要は、審議委員にふさわしい識見の高い者が選ばれているかという人選の問題だ。
■出口問題の本質は国民負担の増加
――新日銀法では、旧法にあった政府による損失補填条項がなくなりました。出口の際のリスクをどう考えますか。
政府の損失補填条項は、旧法にあった政府の広範な業務命令権に対応して置かれていたものだ。新日銀法で業務命令権がなくなったのに伴って損失補填条項も廃止された。
出口戦略の実施により、巨額の損失が発生し、日銀のバランスシートが債務超過になる恐れはあるが、その問題の本質は日銀の財務リスクではない。
通貨を独占的に発行できる日銀は、普通の商業銀行と異なり債務超過になったから破綻するということはないからだ。もっとも、日銀が破綻しないからこの問題が軽視できるわけではない。出口戦略の過程で日銀に損失が発生すれば、その分日銀が毎年国庫に納めていた納付金が減少し、財政赤字が拡大する。政府が日銀の損失に見合う財政補填を行えば、日銀の納付金は減らないかもしれないが政府の支出が増加するため、結局財政赤字が拡大する。どちらにせよ、財政赤字が生じて国民の負担が増大することになる。出口問題の本質はこの国民負担の増加という点にある。
日銀の出口戦略を成功させるために必要なのは、政府の速やかな財政再建だ。政府と日銀の共同声明にも盛られているように、政府は財政運営に対する信認を確保する視点から、持続的な財政構造を確立するための取り組みを着実に推進することが不可欠だ。また日銀の審議委員にもこの点を理解していることが求められる。