正確な統計を作り、これを活用していくことは、経済政策を立案・評価する上で最も重要な基盤である。今回、毎月勤労統計を巡る問題によって、その基盤に多くの問題があることが分かってきた。統計についての関心が高まっているこの機を生かし、統計を整備・充実させていってほしいものだ。
しかし、国会の議論を聞いていると、統計の論議は一過性のものに終わり、建設的な統計整備にはつながりそうにない予感がする。
野党は、連続性を保つために行われている「継続事業所ベースの実質賃金のデータを公表せよ」と迫っているのだが、厚生労働省はかたくなに拒んでいる。公式統計では2018年の実質賃金の伸びがプラスだが、継続事業所ベースではこれがマイナスになる。野党は、マイナスという結果を出したくないので厚労省が公表を拒んでいるのではないかと疑っている。
この議論で不可解なのは、隠す意味が全くないことだ。名目賃金の伸びは公表されており、消費者物価上昇率(帰属家賃を除く総合)も分かっているのだから、実質賃金の伸びは誰でも簡単に計算できる。これほど分かりきったことを公表しないのはなぜなのか、全く理解に苦しむ。
これは野党の主張が正しいと思うが、逆に言うと、分かりきったことを政府が公表したからといって、事態がそれ以上前進するわけではない。
野党は「平均賃金がマイナスだったのだからアベノミクスは成果を上げていない」と攻めたてている。しかし、この平均賃金は、必ずしも平均的な労働者の賃金の動きを表しているわけではない。
人手不足が深刻化する中で、企業は女性や高齢者、外国人などの非正規雇用を増やしている。非正規雇用は賃金水準が低いから、その比率が高まると平均賃金は下がってしまう。日本の平均賃金の伸びが低かったりマイナスになったりするのはこのためだ。
こうした議論を繰り返していては、議論はたちまち行き詰まり、一過性に終わる。「雨降って地固まる」は期待できそうにない。
国会の論議は「責任追及型」「資料要求型」「アベノミクス批判型」に偏りすぎている。「正確で公正な経済統計を整備するにはどうしたらいいのか」という視点を重視してほしい。
(隅田川)
雨降って地固まるために(大機小機) :日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO41399430Y9A210C1EN2000/