「本当? それは痛いなあ」
東京都台東区入谷の街角で一服していた男性(74)は、値上げの話を耳にすると、顔をしかめた。20歳代から建設現場で働く。現場作業のつらさを紛らわしてくれるのは、「わかば」や「エコー」だ。若い頃、たばこを買う金がなかった冬場には、先輩がくれた一本で体が暖まったという。
「年を取って、収入も減るばかり。ここで値上がりしたら、もう本数を削るしかない。唯一の楽しみなのに」
そもそも旧3級品たばことは何なのか。
1985年にたばこ事業法が施行されるまで、たばこは葉の品質によって1〜3級品に分類されていた。現在も販売される「わかば」「エコー」「しんせい」「ゴールデンバット」「ウルマ」「バイオレット」は、その3級品だった。事業法で品質分類は廃止されたものの、6銘柄には、たばこ税法(85年施行)で軽減税率が適用され、税率は通常品の半分以下に抑えられており、いまも210〜260円と格安だ。
その歴史も興味深い。「ゴールデンバット」はJTが現在販売する銘柄のなかで最も古く、文豪、夏目漱石が「坊っちゃん」を発表した06年に発売された。当時の価格は4銭。
あまり馴染みがない「ウルマ」「バイオレット」は沖縄県限定たばこ。「ウルマ」は県内でトップを争う人気銘柄だ。古くは「琉球たばこ」という民間会社が製造販売していたが、日本国内ではすでにたばこの専売制が導入されていたことから、沖縄県の復帰に伴い、JTの前身、日本専売公社が引き継いだ。そのため、資料には、販売年月日として、沖縄復帰記念日の72年5月15日が記されている。