アベノミクス期間で、大企業の内部留保は27兆円増えて過去最高を更新し、300兆円の大台に迫る勢いとなった。
それなら、内部留保を原資として、賃上げをすればいい。
実際に、国公労連が試算したところ、主要企業88社が内部留保の3%未満を取り崩せば、非正規を含めたすべての労働者において、月2万円の賃上げが可能だという。
だが、経団連は下記のようにきっぱりと拒絶している。
内部留保を原資とした賃上げ論があるが、そのような形での賃金引き上げを迫られれば、企業活動を支える有形固定資産やグループ会社の株式などを売却し、現金化して必要な資金を捻出せねばならない。それは結果として、企業の競争力や成長力の低下をもたらし、ひいては従業員の中長期的な処遇改善を阻害することにつながる。
全日本金属産業労働組合協議会「2015年闘争 交渉参考資料」
果たして、その考え方は正しいのか。
日本の上場会社において、時価総額に対し内部留保が占める割合の平均値を算出したのが下記のグラフである。
内部留保の海外比較
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(出典:Chie Aoyagi and Giovanni Ganelli "Unstash the Cash! Corporate Governance Reform in Japan”のデータをもとに筆者がグラフ作成)
内部留保の割合は、他の先進国では15~25%の間に収まっているところ、日本だけ45%近くと突出している。
これを見れば、たった3%をなぜ賃上げに充てないのか、理解に苦しむ。
そもそも、アベノミクスがまだ始まる前の2012年の時点で、OECDはこう述べていた。
日本の労働分配率は過去 20 年間で大きく低下しており、これは大半のOECD加盟国よりも大幅な低下であった。「1990 年から 2009 年までの間、OECD加盟国全体では労働分配率が 3.8%低下したのに対し、日本では 5.3%低下した。」さらに、この傾向は所得格差の大幅な上昇とともに生じた。労働分配率全体が急速に低下した一方で、上位1%の高所得者が占める所得割合は増加した。「結果として、労働分配率の低下は、上位1%の高所得者の所得を除けば、より一層大きなものとなるであろう。」
OECD「雇用アウトルック2012」(※太字は筆者)【注:「」なしの部分】
アベノミクスを経て、この状況は一層悪くなっている。
円安のデメリットだけが非正規労働者を直撃した