行き過ぎ捜査、猛省促す ロシア男性再審決定 逮捕から19年、道警衝撃
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「およそ犯罪捜査の名に値しない」。銃刀法違反罪で有罪となったアンドレイ・ナバショーラフさん(46)の再審開始を決めた札幌地裁は3日、道警の一連の事件捜査をこう断じた。ナバショーラフさんの有罪判決が確定してから約18年、札幌地裁に再審請求してから約2年半。捜査機関による行き過ぎた「おとり捜査」を初めて「違法」とした判断は、道警に大きな衝撃を与えた。
「あのおとり捜査は、やばかった。この件に関しては、道警は完全に『負け』だ」。3日午後、再審開始決定の一報を聞いた捜査関係者は漏らした。「でも今になって、まさか再審が認められるとは…」
ナバショーラフさんが銃刀法違反罪で有罪判決を受けたのは1998年。だがその後、2002年に捜査を主導した元道警警部が覚せい剤取締法違反容疑で逮捕されたことで、事態は急変した。銃刀法違反事件の公判で偽証していたことなどが判明、道警はその後の対処に追われることになった。
道警は02年、公判での偽証容疑などで元警部ら4捜査員を書類送検。この際におとり捜査を認めたものの、一貫して「適法だった」と主張した。違法捜査で逮捕、服役させられたとして、ナバショーラフさんらが道などに損害賠償を求めた訴訟でも、最高裁が13年に上告を棄却。「おとり捜査は違法だったと断定できない」とした1、2審判決が確定した。
しかし今回、札幌地裁は「もともと銃器犯罪を行う意図のない者に対してまで、犯意を誘発するような強い働き掛けを行う必要性などは到底認められない」と当時の捜査手法を厳しく批判した。捜査関係者は「最高裁が上告を棄却したあの時点で、事件はもう終わったと思っていたのに」とこぼす。
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■画期的な決定だ
神奈川大法科大学院の白取祐司教授(刑事訴訟法)の話 画期的な決定だ。おとり捜査の違法を理由に証拠の排除を認めた初の判例といえる。おとり捜査の違法性が正面から争われ、認められたケースもほとんど無い。
2003年に最高裁が初めて違法捜査を理由に証拠排除を認めた判例では、虚偽の報告書作成など組織ぐるみの隠蔽(いんぺい)が重大な違法とされた。その点は今回も踏襲されているが、それを再審開始に結びつけた例は極めて珍しい。
適正な刑事手続きの保障が再審事件でも生かされたという点で、今回の決定を高く評価したい。