普段は隣人との交流もなく、ほかのマンション住民たちのことは気にかけたこともなかったが、改めて確かめると、居住者は70代前後の高齢者ばかりになっていた。
マンションは壁の塗装や水道管の劣化など老朽化が始まっており、管理組合の理事会では管理費の増額も検討されていたが、「どうせ死ぬまであと十数年住むだけ」、「別に生活するのに問題ではない」と一蹴されていた。
亀裂についても「構造上は問題なし」と判断、管理費増額を懸念した高齢の住人たちが修理に反対したのが実情だった。
「年金生活者だからという理由で、管理費を滞納している住民も出始めていた」(岡田氏)
このままいけば、住民が高齢化するとともに、マンションも「老い」に抗うことなく、死を待つばかり……岡田氏は恐ろしくなり、売れるうちに売ったほうがいいと、1000万円台でも手放す決意をした――。
いますぐ売る準備を始めたほうがいい
不動産コンサルタント・オラガHSC代表で、『2020年マンション大崩壊』などの著書がある牧野知弘氏は言う。
『2020年マンション大崩壊』 (文春新書)
「マンション住民の高齢化が急激に進んでいます。日本全国ですでに、マンション世帯主の約2割は70歳以上です。
一方で、自分のマンションにどんな人が住んでいるか、管理組合がどうなっているか、きちんと把握している人は少ない。管理費の滞納が起き、空き部屋が発生、やがて共用廊下の電気すら消え始めた頃に初めて、自分の住むマンションの危機に気付くわけです。
しかし、そのときはマンション価格が暴落の一歩手前。こうした事例が都会のマンションにも広がりつつある。首都圏郊外では200万~300万円でしか売れない物件まで出てきています」
住民高齢化の問題が怖いのは、住民の高齢化率がある一定レベルを超えた途端、堰を切ったように手に負えない問題が次々と噴出。マンション価値を急速かつ急激に引き下げてしまうことにある。
牧野氏が続ける。
「私の知る事例には以下のようなものがあります。
認知症を患ったと思われる住民が、管理費の支払いを遅滞し始めたので催促したら、『自分はちゃんと払っている』と主張された。さらに請求すると、『脅迫罪だ』と逆ギレされるなど、コミュニケーションが取れなくなった。
親のマンションを相続したものの、片付けだけで一苦労。賃貸に出すにもリニューアル費用がかかるので、ゴミだらけの空き部屋を放置したうえ、管理費も滞納した。
こうした住民が一人、一人と増えていくに連れて、嫌気がさした若い住民はマンションを離れていく。そのうち、老朽化対策もされないマンションに、高齢者ばかりが住む状況に陥る。果てはスラム化、となるわけです」
国土交通省が昨年発表した「マンション総合調査」の結果は衝撃的だ。同調査によれば、「3ヵ月以上の管理費の滞納がある」と答えた管理組合の数が、日本全国のマンションのなんと約4割。スラム化の予兆が多くのマンションに出現していることがわかる。
2024年には団塊の世代が75歳以上になり、3人に1人が高齢者という老人社会に突入する。そのときに動き出すのか、いまから売る準備を始めるか—答えがどちらかは明らかだろう。