静まりかえった会議室。資材の調達部門で行われた会議の模様が録音されている。
課長が報告しているのは、調達のコスト削減目標に関する進捗状況だ。期初にカンパニー社長が
出席する会議で目標を掲げる。だが、その目標額は課長が考える現実的な数字に、上司から強要
された「チャレンジ分」を上積みしたものだ。達成の見込みはほとんどない。そこで課長は、当初より
目標額を低く再設定した計画を作り直し、会議の場で報告していた。
突然、課長の報告を聞いていた上司が苛立った声を上げた。
上司:「すぐにそういう風に話をすり替えるから困るんだよ。だましているんでしょ」
課長:「(当初目標の達成が)できないということでやり直しました」
課長は焦りから上ずった声で答える。
上司:「できないから変えたんでしょ。そんなこと誰がオッケー出したの」
課長:「7000万(円)できないので・・・」
上司:「それじゃあ、全然宿題の答えになっていない。話になんないよ」
課長:「……」
上司:「黙ってたら分からない。“施策”として、少なくともあれとあれを出してくるという話でしょ。出てない
ことはどう説明するんですか。数字がなきゃ、計画だけどうこういうのは、はっきり言って時間の無駄です」
「施策」とは、チャレンジで掲げた数値目標を達成するための事業計画を意味する、東芝の社内用語だ。
チャレンジ目標を達成するために、「何度も新たな施策を出すことを求められた」とこの課長は証言する。
ただ、調達部門の場合、相手企業との交渉が必要なため、施策を実現できるかどうかはすぐには分から
ない。計画通りに進まなければ、上司から別の施策を出すように強く求められる。「この無限ループで、
頭がおかしくなりそうだ」。この課長はため息交じりにこう語った。
録音データには、次第に激昂していく上司の様子が残されていた。
上司:「何をやっているんですか。いい加減にしてくださいよ。何ですかこれ」
スピーカーからの音声がひび割れるほどの大声で罵倒する上司。怒鳴り声の合間には、ドンドンと激しく
資料で机を叩く音も録音されている。
上司:「全然話になってないって。何人(部下を)出して、いくら稼いでいくらになる。残りの7000万は
こうやって出します。そういうのを出してこいよ。それが施策でしょ。(カンパニー社長が出席する)会議で
テーマ(施策)はあります、(チャレンジ目標の達成は)できますと言ったでしょ」
課長:「やりますとまでは言っていません」
上司:「ダメです。そんな言い訳は通用しない。あの場でできますと言ったぞ。ああいう資料を作って
できませんってことなのか」
課長:「がんばります、とは言いましたが…」
上司:「あの場(会議)で『がんばります』って言ったことはイコール『やります』という意味ですよ。そうなってる
じゃない。じゃないとあの会議は何のためにあるんだ。そんな話は通用しない!数字を落とす(達成できない)
のはあり得ない!」
課長:「実力不足でできなかったんです」
上司:「やるって言ったのに今さらナニ言ってるの。結果は結果。あんたが自分で(カンパニー)社長に対して、
数字を落としたと説明してこいよ」
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/082700031/082800003/
記事中の録音書き起こし部分のみ抜粋