http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43283
ギリシャの危機は、単なる経済的混乱ではない。ますます地政学的な混乱にもなりつつある。
今年1月の総選挙後に急進左派連合(SYRIZA)が政権の座に就き、ギリシャ首相となったアレクシス
・チプラス氏は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に取り入ったり、ドイツに戦時賠償を求めたり
するなど、乱暴な政治的レバーを引っ張るようになった。それがどういうわけか他のユーロ圏諸国
から譲歩を引き出すことになると考えてのことだ。
(中略)
ギリシャ政府は目下、むしろ扇情的な政治的愚弄という球を打ち上げることを好んでいるように
見える。
ギリシャの防衛相は、欧州を、ジハード主義者を含む移民であふれさせると脅かした。法相は、
ドイツに1600億ユーロ(1700億ドル)の戦時賠償を支払うよう求め、賠償金が支払われなければ、
ギリシャはゲーテ・インスティトゥートの建物、さらにはドイツ人の別荘をも没収するかもしれないと
警告している。
そしてチプラス氏は、プーチン大統領と会うためのモスクワ訪問予定を4月上旬に繰り上げた。
チプラス氏が期待するメッセージは、乱暴であると同時に明々白々だ。プーチン氏は、対ロシア制裁
に反感を持つ仲間の正教会国家を喜んで助けるかもしれないというメッセージである。
明らかにギリシャは、自国の利益になるように、ロシアのように脅しを利用できると思っている。
歴史には前例がある。米国がトルーマン大統領の下で第2次世界大戦直後にギリシャに支援を
提供したのは、ソ連の侵略を回避するためだった。今も、ギリシャがロシアに魅了されることは、
北大西洋条約機構(NATO)とEUが最も避けたいことだ。
チプラス氏は危険なゲームをしている。ギリシャ国民の膨らんだ被害者意識を煽ることで(ドイツに
対する歴史的主張には一定の正当性がある)、チプラス氏は、すぐに手に負えないほど燃え上がる
恐れのある炎をかき立てている。
世論調査は一貫して、過半数のギリシャ人がユーロにとどまるのを望んでいることを示しているが、
EUのパートナー諸国がギリシャを不当に、かつ軽蔑をもって扱っていると国民に言うこと以上に、
ギリシャ国民の考えを変える良い方法はない。
(続く)