川に着くとさっき俺が顔を洗った場所が見えたので近づいて冷や汗を洗う
対岸だったがちょうどよく石があったおかげでうまく飛び越えることが出来た
どこで道を間違えたんだろうかと改めて考えていると来た道からパキパキと小枝が割れる音がした
ウサギかネズミだろうと思ったけど小動物の出す音ではない。一定のリズムで鳴る、もっと大きな何か。え、イノシシとかっていないよな?
対岸だったが怖くなってそっと立ち上がろうとしたとき、その音の正体が現れて、俺は呆然と口を開けた
太い木の裏から出てきたのは熊のコスプレをした女の子だった
「オマエ、ウマソウダナ」
「・・・はい。」
赤褐色の髪の毛に、大きくて黒い瞳を持つ変人に俺はおかしな返事をしてしまった
髪と同じ色のチューブトップとホットパンツで大事なところを隠し、あとは手足に熊のそれを模した着ぐるみと頭には耳を生やしている
まさにクマのコスプレ。ハロウィンパーティーでこんな格好をしている女性をテレビで見たことがある
頭から生えた耳はカチューシャなのだろうが、ライオンのたてがみを思わせる彼女の髪の毛に埋もれて本当に耳が生えているように見える
これはスカートで山に来る若菜でさえ驚きを隠せないに違いない
キラリと八重歯を光らせながらその変人は俺にのしのしと違づいてきた
「ニンゲンノ、オス、オイシイ、ウレシイ」
「え、あ、オス?美味しい?ってその、え・・・?そういう・・・?」
「バカ、マルダシ、コイツ」
や、山に熊のコスプレで来てるやつに馬鹿丸出しとははたして?
「き、キミハ ハダ マルダシ エヘヘ」
「クマー!」
変人少女は怒ったのか両手を上げた。威嚇の真似だろうか、なんとも愛らしい姿だ
「オマエ タベル」
「いや、その、急だね。俺、そういうの初めてで、こんな突然くるものだなんて」
俺は頬を赤らめながら言う、その時周りの木がざわざわと音を立てて揺れた
「オマエニ、キイテナイ」
「え、」
「ヤマニ、キイテル」
「アハハ、駄目だ、いまいち言ってることが分からない」
そうこうしているうちに少女は俺の目の前まで来た
川にざぶざぶとはいってこちら側に来てもその両手を下げてはいない
ま、まぁそんなに抱き付いて来ようとするなら俺も近寄るのが礼儀だろう。状況はどうあれ。うん、そういうもんだ
俺は両手を前に出して少女に抱き付こうとした。
「クマー!」
風を切るような音がして少女がその大きな熊風の手を俺に振り下ろしてきた
「・・・え?、あぁ、やっぱりいきなり抱き付くなんて駄目だよね。そうそうまずはお互いに、」
そういいながら、強く叩き落された左手を見ると手の甲からだらりと血が滴っていた
「・・・え?あぁ!!痛てぇ!」
嘘だ!こいつ本当に熊だ!話せる熊だ!風にさらされる傷口を見て俺はそう確信した
怖い!なんだコイツ!
「ニンゲンノ チ イイニオイ」
熊娘は地面に滴った俺の血を見ながら少し高揚した口調でそんなことを呟いている
駄目だこいつヤバイ、怖い
俺は左手を押さえながら途端に腰を抜かして動けなくなっている自分に気づいた
逃げる
◎クマさんこちら手のなるほうへ