「左に行くか」
耳に抜ける小鳥のさえずりと額を照らす木漏れ日が少しずつ心の負傷を癒してくれる
山っていうのはどうしてこう心落ち着かせてくれるのだろうか。深呼吸するたびに新しい空気が胸にたまった毒を吐き出してくれるみたいだ
「ここらで休憩にしよう」
中腹まで登ってきて大きな岩に腰かけた
登り始めた時間が正確じゃないけど、駄菓子屋に寄り道もしたし12時30分くらいだろう
「うー、のど乾いた。あ、そうだ」
俺は手首にかけていたビニール袋からラムネを取り出しふたを開けた
炭酸と糖がのどを刺激して全身に安らかな平穏が訪れる
「・・・、・・・」
身体が満たされると意識が外へ向いてゆく。標高の上がった風が火照った体を冷やし、川のせせらぎが涼を運んでくる。
「ん?川なんかあったっけ?」
耳に流れ込んできたさらさらとした擬音を頼りに木々を掻きわけていくと身長の倍の幅の川が流れていた
「いつもは大勢で登ってたから気づかなかったのか」
熊出山の新しい発見に少し心躍る
近寄って汗ばんだ手を洗い、その後顔にぶちまけた
「き、気持ちいい」
4,5分ほど無為に水を眺めた後、腰を上げた
「そういえば少しけもの臭いような・・・。気のせいか」
俺は踵を返し、少し険しくなる山道に対しまた新しい発見があるのではと心高ぶらせ山頂を目指した