同じ川だと祈りを込めて近づいてそれが正しかった時の嬉しさと言ったらもう
俺は羽を休める小鳥のように急に心が穏やかになるのを感じた
元来た道を確認し安堵して、一息つく。
するとさっき来た道の方からガサゴソと物音が聞こえてきた
イノシシなどではと考えた俺は身じろぎしたが結局呆然と口を開けるだけになったのである
草むらから出てきたのは熊のコスプレをした女の子だった
「オマエ、ウマソウダナ」
「…はい。」
日常の反射でおかしな返事をしてしまった
ナチュラルな赤褐の髪の毛に、大きくて黒い瞳
チューブトップとホットパンツのようなもので大事なところは隠れているがどう見てもこれは人間がしたクマのコスプレだ
日本ではそう見ることのない風体に異様な雰囲気を醸しながら彼女はこういった
「タベテモ、イイナ?」
「え・・・へへ。あは、ははははは!何が、タベテモイイナ。だよ恰好だけじゃなくてロールプレイまでばっちりとはよくできたコスプレイヤーだなぁ!」
俺は地面にへばりつくようにしてゲラゲラと笑ってしまった。まさか熊出山にこんな頭のおかしい面白い奴がいるとは
「いやー、はは。ありがとうございます。すごく元気出ました。ははは。」
「クマー!!」
なおもロールプレイを続けたがるのでこちらも乗ってみることにした
「く、クマさん、怖いです。食べないでください!ぜんぜんおいしくないですからぁ!!」
普段なら初対面の女性など身じろぎしているところだろうが相手が度を超えての変人なので一般的な感情はどこかへ吹き飛んでいた
「クマー!!」
怒っているのか両手を上げている。威嚇のつもりだろうか。のしのし歩いてくる姿があまりにも頓狂だったので目の前に彼女が来た時点で俺はまた頭を下げて笑いだした
バシュ!
鋭い音がしたが顔を下に向けていたので何が起こったか分からなかった
すると頬の辺りから鼻にかけてツーっと赤い汁が滴ってくるのが分かった
そこに風が吹いてきて俺の頬をやたら冷ましてくるので気になって触ってみるとべっとりと赤い血がついていた。
「うわぁぁぁああ!」
俺はこの時初めて彼女が本当の熊なのではと思った
しかし声を上げてはみたがこのあと適切な対応がどういう行動なのかまったくもってわからなかった
逃げる
▶クマさんこちら手のなるほうへ