山頂からの景色は伸びた身長の分だけ来た道を詳細に教えてくれた
「なんだかこうしてみるとそんなに大きくないんだなぁ」
小学生の頃はこの熊出山がもっと大きくて、一度迷ったら三日歩いても出られない魔界だと思っていたこともあったのに
結局あれから山頂までは繰り返された道で目新しさや込められた思い出なんてものはなかった
ひょいと左を向けば隣町にある小さな観覧車が見える。年に数度、家族であの観覧車に乗るのが楽しみだったのだ。中学で部活に入ってからはあんまりいかなくなったけど
きっと俺の家から車で30分もかからないだろう
なんだか急に世界が自分の手の中にすっぽり収まる小さなもののような気がして俺は足早に下山を決めた
下り始めて20分程して自分が迷っていることに気づいた
「・・・・・・あれ?」
目の前の景色が登りの景色と似ている、似ている気がするがどこか違う気もする
下ってきた道を振り返ると、これもまた、登った時見たような気がするのだが、どこか違う気もする
人に踏み固められた道を歩いていたのだがあまり考えず登っていたことがあだになったようだ
「待て待て、上から見たときはあんなによくわかったじゃないか。なんで今わからないなんてことがある」
努めて冷静を孤独に装う。そしてどこから下っても下に行けばわかるはずだという答えにたどり着き、拾った棒が倒れた方角へ歩き始めた
それから数分してさっきの川のせせらぎが聞こえてきた
「ほら見ろ!こんなもんだろう!」
登るときは左側から聞こえていたのに今も左側から聞こえていることはつまり道を間違えていたということなのだがそんなことはどうでもいい
不安のおもりが落ちた俺はそこに確かな正解を求めて川におびき寄せられるようにするすると近づいた
大分迷走している気が・・・もとからだからいいか!!