一年間暇だしなんか続けようとおもう #56

56以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2020/01/17(金) 00:53:35.58 ID:RMh2Vg1l

おなかが空いたから、私はファミレスに来た
空きのない駐車場を横目に、入口の取っ手を引く
店内はありふれたシャンデリアと絵画で装飾されていて、そばのソファには数人の客が座っている
せわしそうに動くウェイターが気づいて、少し早口で人数を確認してきた
少し待って、席に案内される
昼間のファミレスは家族連れの声に気圧されてBGMのクラシックは息をひそめている
メニューを開きながら、チラチラと周りを確認する。テーブル席しかないとはいえやはり一人は居心地が悪い
お気に入りのオムライスを注文して、通路を挟んで向かいの席に視線をやる
「おい、早く食えよ」
さっきからどうも雰囲気が芳しくない
親子三人だ。図体のでかい40歳ほどの男、その横にフリルのついたスカートをはいた女の子が、
テーブルの向かいには黙々と定食を食べ進める12歳くらいの男の子が座っている
普通子供と大人で座るものではないだろうかと違和感を抱いたばかりであったが低い男の一声で完全に注意が向いた
「だいたいお前はいつもそうだよ。なんっでも遅い。勉強も走るのも、準備も食べるのも。」
抑揚があってねちっこい言い方だ。男は肘をついて男の子を見下ろす
男の子は眉をよせて口ごもっていたが、父の方をちらっと見て諦めた様子でハンバーグを口に運ぶ
私は、こう、動悸が早くなるのを感じたのでふっと目の前にある空のコップに視線を落とした
しかし、耳は彼らの方を向いた
「さやは偉いな。全部食べて、後でアイス買おうな」
「あのね、お母さんも言ってたよ。ゆうたは食べるのが遅いって。学校でもたまに残すって」
女の子はそれだけ言って手元の携帯に目を落とす
「お前さ、恥ずかしくないの?小学6年生だろ?来年から中学生なんだぞ?飯も食えないでお前どうする気だよ、学校行かなくなったら、家追い出すからな」
どんどんと厳しくなる口調だが、周りのガヤにかき消されて遠くまでは聞こえない
「…俺もアイス食べたい」
届くか届かないかといった声で喋る
「あるわけないだろ馬鹿が。自分の飯も食えないやつにアイスなんかあるか」
このタイミングで私のもとにオムライスが送られてきた
ご注文は以上ですか?無垢そうな笑顔を向けてくる店員になんだか腹が立つ
「もういい、時間がもったいない。会計してくるからその間に食えるだけ食え。さや行くぞ。」
そういって父と娘は先にレジの方へ行ってしまった
つい注視し過ぎていたのだろう、立ち際に父親にじっと見られた
私はジッと睨み返してから、独りになった息子の方を見た
チラチラと親の背を見ていたがパッと私と視線が合った
息子はすぐに視線をそらしたが私が気にするそぶりを見せると先ほどよりさらに顔を崩してこちらを見てくる
何か、かけられる言葉はないかと探した
しかしケチャップの付いたスプーンの先が震えるだけで、何もできなかった
会計を済ました父の方が来て、三人はファミレスを後にした
彼らが出て行ったあと、私は味のないオムライスを食して外に出て、飽きるまで走った

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