「駄菓子屋に行くか」
俺ははやる気持ちを押さえて一旦駄菓子屋に向かうことにした
歩いて数分のところにある駄菓子屋「つんつん」
昔から通っている駄菓子屋で、同級生のお母さんがやっている店だ。いつか駄菓子屋だけで成り立つのか聞いたことがあったがどうやらレンタルや配送なんかでどうにかやっているらしい
さて、これから店に入るわけだが。どうなんだろうか。今日は天気もいいし遊びに行っていると思うのだが
そう思いながら、俺は店のガラス戸をそろりと開いた
「いらっしゃいま・・・なんだお前か。きっしょ」
「す、すみません・・・いたんですね」
いきなり俺の心に鋭く切り込んでくる彼女の名前は、木元若菜(きもとわかな)、同級生の女の子だ
家が近いので登下校は一緒になることが多かったし学校も同じ、いわゆる幼なじみのはずなんだが
「早く帰れよ、家が腐る」
彼女がいるときは怖くて近寄れないのだ。今日は友人たちと出かけていると思っていたのだけれど
「そ、そこまで言わなくても」
縮こまった体でそそくさと駄菓子を物色する。保育園の年長くらいまでは一緒に団子を作るくらいには仲が良かったのに
今ではヒエラルキーが離れすぎていて捕食すらされない彼女の前に俺はただ怯えるしかないのだ
「あ、あとラムネ一つください...」
ラムネは彼女の座っているレジ台の隣にあるガラス張りの冷蔵庫から取り出すのだ。どうやら電源がそこにしかないかららしい。いつもなら若菜のお母さんが優しく取ってくれるんだけど
「ちっ、めんどくさいわね、何本よ?」
「え?今、一つって...」
「・・・ちっ!」
い、いつも以上だ。確かに普段から侮蔑の目を向けてくるのは間違いないが今日はそんな生易しいものではない、一種異様な雰囲気を感じ取った
なのに俺は人間にそっと吸い付く蚊のようについ彼女の琴線に触れる質問をしてしまった
「な、何かあったんですか?いつもより怒ってるというか?」
「うっさいわね、あんたに関係あんの?ゴミはしゃべらないからゴミでいられるのよ喋ればもう公害よ」
「あ、あ、ごめんなさい」
「・・・友達と出かける予定だったのに母さんに店番頼まれたのよ。これでいいでしょ」
俺の顔がよほどひきつってしまったことに罪悪感でも感じたのか彼女が応えてくれた。やはり根っことしてはいい奴なのだ。団子丸めるの手伝ってくれたし
「そうなんだ、あ、あのもうちょっと優しくいる方がお客も入りやすいっていうか、その・・・。」
「ハァ?あんた以外にこんな口調でいると思ってんの?きっしょ」
「それって、俺が特別ってこと?」
い、いかん。レスポンスされたことがうれしくて調子乗った発言をしてしまった。俺は自分の頭が斧か何かで真っ二つにされるのではないかと思った
「そりゃ人間以下なんだから特別でしょ。友達のパンツ覗いたり山で脱糞するような奴」
「うぅ・・・またその話を」
だ、駄目だ彼女と話しているとピーラーを使わず剥いたジャガイモみたいに精神をすり減らされるから困る。自分で袋詰めした駄菓子とラムネを持って出口へ急ぐことにした
「あんた今からどっか行くの?」
彼女が聞いてくる。俺は今掘り起こされた思い出と彼女の怒りの理由を思い躊躇したが、小さく熊出山に行く。と答えた
「なんだまた野糞でもしに行くの?トイレットペーパー買えば?」
また強くなった口調を背に涙をこらえて俺は外に飛び出した
「さて、行こうか」
負傷した心を抱え俺は熊出山に向かって歩き出した