危なっかしい子供がいた
通勤ラッシュ極まりイラつく黒山たち
人と車が弁当箱の仕切りで分けられたおかずのように行儀よくごたついているその境界
ゴマ豆腐のような縁石の上をこちらに向かって軽やかな足取りで駆けてくる少年が一人
危なっかしいと思っているのはきっと俺だけで周りは自身の目的達成のために風切って歩かねばならないし、
当の本人も下唇を巻き軽く微笑する得意げな表情から俯瞰した状況把握というものが欠如しているだろうことは想像できる
出来の悪い子供を大人が正しい方向に導いてあげなければならない。俺はそういう大義名分を借りてちょっとイタズラしてやることにした
前や後ろからしけた波のような人だかりがぶつかっては渋滞しけれども勢いを止めることなく流れてくる、その中をどうにか抜けて未撤去の電柱に寄り掛かった
俺はかすかにほほ笑んだ。それはきっとこれから起こることへの独善的な感情とそれに伴う少年への期待があったからだと思う
周りの人の倍のスピードで進む少年が無電柱化のための配電箱に差し掛かった時さっと俺は飛び出した
俺がにやりと口角を上げ道徳的なその言葉を吐きだそうとしたときわずかに早く少年が口をついた
「邪魔するなんてよくないなぁ。あんた俺より目立ってるぜ」
それだけ言うと少年は人だかりの中にかけていって振り向いたときにはもう消え失せていた
それと同時に行きかう人の数人がこちらをチラチラと一種の憐みのような、また侮蔑のような目で見てきていることに気づいた
恥ずかしさがこみあげてきたがどうすることも出来ず、目的を失った男はただ境界にポツリと佇むのであった