「いや、いい」
「え?なんで?」
男女が二人で観覧車に乗る場合、そこには何か特別な意味合いが含まれる。なんとなくそんなイメージがあった。あんな狭い空間に長時間成田と二人きりでいるなんて耐えられない。意識するあまり挙動不審になることは間違いない。ゆっくりするどころじゃないだろう。これ以上醜態を晒すのはごめんだった。
「俺の体調なら心配ないよ。このくらいならそのうち良くなるから。観覧車より他になんかないの?」
「ううん……」
「ほら、これとか」
広げてある案内図を見て、目についたアトラクションに人差し指をとん、と置く。
「あ、私これ乗ったことない」成田が言った。
それは「神の対義語」というアトラクションだった。大きな振り子のようなアトラクションで、振り子の先に大勢の客を乗せて前後に揺れる。揺れる際の速度はかなりのものである。これと同じようなアトラクションは他の遊園地でも珍しくなく、振り子の先が海賊船だったりブランコだったりと、遊園地ごとに個性がある。ネプランドの場合は、数字の「0」のような少し歪んだ輪に沿って座席が並べてある。
このアトラクションもジェットコースターと同じくいわゆる絶叫系である。そのことに気付き、しまったと思ったが、自分から提案した以上は取り下げるわけにもいかない。自分の軽率さに心の中で舌打ちをしながら何ともないように
「じゃあこれでいいじゃん」
と言うと成田は
「うん。そうだね」
と頷いた。
「よし決まり。そろそろ行くか」そう言って椅子から立ち上がった。