ジェットコースターの建物から少し離れたところに休憩スペースがある。パラソルつきのテーブルと椅子3脚がセットになっていくつか置いてある。そのうちのひとつに腰かけて一休みすることにした。他のテーブルには飲み物を飲んでいる親子連れがいた。広場には食べ物の販売スペースもあるが、ピークの時間はもう過ぎたらしく買っている人はいない。
椅子に座って一息つく。まだ少し頭がくらくらする。遠くの方に目をやると、楽しそうに行き交う人々が見えた。
「大丈夫?」テーブル越しに成田が聞いてくる。
「いや全然大丈夫だから。むしろ成田のほうこそ大丈夫なのかよ」
「私は何回も乗ってるからなんともないけど……」
「ならいいけどさ。次どうする?」
あんな乗り物でも何度か乗れば慣れるという言葉に内心で驚きつつも、平静を装って手に持っていた園内の案内図をテーブルに広げる。「ああそうだね」と成田はつられるように案内図を覗きこんだ。
「なにがいいかなぁ。まだ外明るいからお化け屋敷もちょっとねぇ」難しい顔で案内図を眺めながら成田が言った。
その時、別のテーブルで親子連れが何やら声をあげた。母親が慌てている。どうやら子供が飲み物をこぼしてしまったらしい。慌てる母親に驚き、子供が泣き出した。父親が子供を抱き上げ、あやすように話しかけている。母親は飲み物の後始末を始めた。
「あっ、観覧車は?」成田が言った。
その言葉を聞いて一瞬思考が止まる。観覧車……?
「ねえねえ、観覧車に乗ろうよ。ジェットコースターで少し疲れたし、ゆっくりできるんじゃない?」
気を遣われてしまった。なんだか申し訳なくなる。だがそれ以上に、成田と観覧車に乗るということに抵抗を覚えた。