初めて乗るジェットコースターに胸を踊らせながら席に座る。座席は硬く、つるつるしていた。左隣の席では成田が顔をほころばせてそわそわしている。すでに安全バーを下ろしていた。
「いよいよだな」バーを下ろしながら言うと
「うん。楽しみ」とにこにこして答える。
「なんか緊張してきた」
「泣かないでよ、須藤」
「泣かねぇって」
「スタッフが安全バーの確認を致しますので、バーを下げてお待ちください」とアナウンスが入った。右に立っていたスタッフが安全バーを触って確かめる。さっきは容易に動いたバーが、今は全く動かない。かなり心強い。
乗客全員の安全バーを確認し終えると、スタッフが横に戻ってきた。そして、マイクを付けたスタッフが「それでは、いってらっしゃーい!」と言うと、がたがたと車両が動き出した。横に立つスタッフがタッチをしようと手を差し出したので、右手でそれに応じる。すれ違いざまに「いってらっしゃい」と声をかけられた。
ジェットコースターはレールの上をゆっくりと進んだ。少し進むと大きなカーブに入り、それを過ぎると外に出た。しばらく建物の中にいたので太陽の陽射しがまぶしい。前方ではレールが結構な上り坂になっている。まるで空に向かって延びているかのようだ。間近で見ると、地上から見たときよりも迫力があった。かなり高い。後ろの乗客たちは「えー!」「あんな高いの!」と悲鳴を上げている。
その坂を、ジェットコースターは速度を落とさずに淡々と登る。背もたれに自分の体重がかかる。景色はみるみる高度を上げていく。下を見るのにも勇気が必要になる頃には、頂上はもうすぐそこだ。
がたん、と揺れて頂上に着いた。車両が水平になる。空の向こう側が目線と同じ高さだった。
「ねえ須藤」
ふいに成田が声をかけてきた。振り向くと、成田が安全バーを軽くつかみながら楽しそうに微笑んでいる。後ろには雲ひとつない青空が広がっていた。
「今日は誘ってくれてありがとう。私本当に楽しみにしてたんだよ」
ふたりの距離が近いからだろうか。目の前にいる成田の声は、周りのざわめきにも関わらずはっきりと届いた。
「よろしくね」
視界が傾く。ざわめきがいっそう大きくなり、ジェットコースターは重力にしたがって落下を始めた。