「ん?」
「私、もうすぐ退いんする事になったの」
「......そうか。良かった」
気づけば、あの事故から半年以上経っていた。
少女の体は順調に快方に向かい、ついには退院だそうだ。
「ぜんぜん......うれしくないよ」
「......」
「おかあさん........いなくなっちゃったし、先生ともお別れなんて......」
久しぶりにまた悲しそうな顔をする。
いや、私の前に見せなかっただけで、彼女についた深い傷はまだ殆ど癒えていないのだろう。
「......退院したらどうするんだい?」
「......おばあちゃんのお家にいっしょに住むの」
「......そっか」
ふと窓を眺める。窓は少し開いていて、そこから涼しい風が流れ込んだ。
「......」
「......お祖母ちゃんの家はどの辺なんだい?」
「......ここからそんなに遠くないって。少し町外れの方っていってた」
「......そっか。ならたまに家に遊びに来なよ」
そう言って、手帳のリフィルを一枚千切り、自宅の住所を書く。
「大学の近くだよ。この病院からもそう遠くない」
「......いいの?」