帰宅すると、大きな箱が二つ置いてあった。
ずしん。これはたぶん布団かな。
やっと布団のうえで寝ることができる。
今一度布団の大切さを考えさせられた。
夜食のカップラーメンをほおばる。
全国共通の味という安定さが僕の心を落ち着かせた。
「ピンポーン」。不安定さ抜群のベルが鳴る。
新聞ならお断りだ。
僕は麺をすする手を止め、最後の砦、ふとんにもぐり込んだ。
しかし、不安定な音はとめどなく鳴り続ける。
新聞勧誘ならここまではしない。
ならば、犯罪者か…!
と思った矢先、ドアを開ける音が!
しまった!カギを掛け忘れたか!
ゲームオーバー!僕の冒険はここで終わってしまった!
んなわけないない!
僕はフライパンを手にとった。
敵まで後数メートル、まだ姿は見えてこない。
気配が動いたら、敵の頭を打つ!打つ!打つ!
シミュレーションを繰り返した。
よし、できる!
敵の正体は和美ちゃんだった。
作り置きの夕飯の皿を置いているところだった。
そんな彼女の前に発狂して飛んでくる僕。
端から見れば非常に滑稽かつカオスな場面だが、
当の本人から見ればまったくもって恐怖の瞬間である。
彼女はそそくさと皿を置き、挨拶もなしに帰ってしまった。
美味しそうな焼き魚がこの場面の悲壮さを増長させる。
僕は何も言えず、凶器のフライパンを持ったまま立ち尽くしてしまった。
昨日は和美ちゃんに何て弁明しようかと頭をめぐらせていて、眠ることができなかった。
ボーッとしつつ学校までの道を辿る。
道を楽に覚えられる才能は両親に感謝しないといけないな。
1-1のドアを開く。変わらない。掟通り、か。
先日と同じように、て、あれ、和美ちゃんはいない。
どうしたことか。
「先生、森さんがいません」
先生は何事かと考え、思い出したように言った。
「ああ、そうだ。森さん今年のササゲミだったね」
ササゲミ?初めて聞いた言葉だ。
しかし、危なそうな事だけは分かる。
「ササゲミって、何ですか?」
「ああ、ササゲミっていうのは、古代からここに伝わるならわしでな、おっと授業開始だ。放課後に職員室に来てくれ。続きを教えてあげよう」
いいところで切られてしまった。
授業という名の自習時間をこの「ササゲミ」について考えていた。