車窓から顔をのぞくと、11月の冬に入ろうと意気込む風が僕にぶつかってきた。
カーナビを見るとZ県を指している。
「約束の地」までもうすぐだ。
「これは?」郵便受けに入っていた謎の住所の紙。
そこには、「Z県田沼郡川本町坂木地区」と書かれてあった。
もちろん僕はそんな住所も知るよしもなく、
一度も家の中では話題に出る事はなかった。
もともと寡黙なお父さんだからしょうがないか。
「今後のお前の住所だ」
寡黙なお父さんは一言それだけを呟き、
今日まで至ってしまった。
「着いたぞ」
お父さんに肩を揺さぶられる。
どうやら寝ていたようだ。
ドアを開け、砂利を踏む。
周りを見渡しても、家らしき物はなかった。
「家はここにある」
「あとで細かい荷物は届く。銀行口座は近くにある郵便局を使うといい」
ここの地区の地図をくれた。
「わかった」
一人暮らし、か。
お父さんは車に乗り、もと来た道に戻ってしまった。
家までの道のりは遠かった。
目印となるものがなかったからだ。
周りを見渡しても山、山、山。まるで自然の要塞だ。
家は築4~50年くらいか。
よくある民家だ。ただ恐ろしくボロい。
窓はひび割れ、玄関の扉は腐りかけ。
15の少女にはあまりにも不釣り合いだ。
扉をガラガラと開け、家の中に入る。
床がひんやりと冷たい。
とりあえず肩に掛けておいた旅行用かばんを置いて、
さまざまな場所を見てみよう。
幸いにもトイレは改装されており、洋式だ。
もう夕方にも近い頃だし、明日のごはんを調達せねば。
来る途中にコンビニがあったはず。
コンビニは日本中にどこにでもあるのだということを再確認した。
コンビニはいたって普通で、どぎつい色の看板、「パーソンマート」の文字がまぶしい。
入ってみたらカウンターで一人、店員がぼーっと突っ立っていた。
僕はそんな店員を尻目に、パンのコーナーに向かおうとした途端、何者かがぶつかってきた!