「そういえば道具って、なんなの?」
「ああ、マジックの道具のことね。私実は昔っからマジックが大好きだったから。家に帰ってから見せてあげるわ」
実に楽しみだ。ぜったいタネを明かしてやろう。
カタンカタン、と二両編成の電車が走る。
5分ぐらいの長い山のトンネルをくぐると、そこには開けた町が広がってきた。
「人口9000人のうち、8500人があっちの地区に住んでるからね。開けてるのは当たり前だわ」
「下ノ瀬、下ノ瀬」キキぃ。と電車が止まる。
休日だからか、降りる人が多い気がした。
駅を出ると、温泉街の看板が目につく。
「和美ちゃん。ここの地区って温泉が出るんだね」
「いや、こっち西沢地区もでるんだよ。でも十分な観光資源になりにくいから掘ってないだけ」
「じゃあ、何が観光資源なの?」
「何もないのよ」「何もない?」
「そう。何もない」
これじゃ当たり前だが人が来ないだろう。まさに自然の要塞だ・・・。
バスを使って20分のところにそのお店はあるという。
僕達はバスに乗り込んだ。
すでに暖房がついていて、とても暖かかった。満天の青空と白い雲。
毎日がこんなに綺麗な空だったらいいのに。僕は空を見ながらそんなことを考えていた。
バス停に降りた時にはもう12時。お昼の時間だ。
僕らは近所のコンビニでおにぎりを2つづつ買った。
僕は明太子、和美ちゃんはシーマヨだ。近所の噴水が出ている広場で食べることとなった。
「ここから歩いて2・3分ってところね」
マガモが噴水の水面をゆらりゆらりと泳いでいた。
「でもさ、」
「先生の話はさ、しないでおこうよ。周りの人に聞かれたら物騒だし、さ」
「うん・・・」
しぶしぶと和美ちゃんは頷いた。
もちろん僕もその気持ちはわかっている。
犯人を見つけたい気持ち、自分が消えてしまうんじゃないかという気持ち、様々な気持ちが入り交じっている事は。
冬だなぁ・・・。