白い着物を着た和美ちゃんが赤いカーペットの端に立っている。
スポットライトが和美ちゃんに当たると人々の歓声が巻き起こる。
若干緊張していた和美ちゃんは何かを唱えている。
大丈夫かと心配しているお母さんの方をポンポンと叩き、「大丈夫だよ」と落ち着かせているお父さん。
町民のみんなが和美ちゃんに注目して、応援している。頑張れ和美ちゃん!
そして何かを唱え終わったあと、しゃなりしゃなりと歩き始めた。
なんとも言えない美しさ、気品がある歩きかただ。いつもの和美ちゃんとは違う。
いや、これが本当の和美ちゃんの姿なんだろうか。
本当の和美ちゃんは、気品があって、透明な美しさ、おしとやかな女性なのだろうか。
僕はそんな「本当」の和美ちゃんを守れているのだろうか。
守るということはどれほど難しいか再認識した。
和美ちゃんは木の机までにたどり着き、ひざまずく。
ここからの練習がきつかったと話していた。僕も胸がばくばく鳴っている。
和美ちゃんはすっくと立ち上がり、机の上においてある大きな木のコップを持ち、
なみなみとついである水を飲み始めたのだ。
苦しそうな和美ちゃん。うう・・・。自然とお腹に力が入る。
そうして、飲みきった。顔が白くなっている。
そうしてまた崩れるようにひざまずく。場は最高潮だ。
そして最後、ふりしぼる力で手を宙に上げた。成功したのだ。
和美ちゃんの元へ駆け寄る。ヘトヘトになって座っているのが精一杯のようだった。
「お疲れさま。このりんご飴、舐める?」
「いや、もう何も入らないわ。胃の中がぱんぱん、」
「ぱんぱん?」
和美ちゃんは茂みの中に急いで入っていった。「ちょっと耳をふさいでおいて!」
茂みから死にそうな声が聞こえてきた。なるほど、耳をふさぐ。
「オーケーだよ!」
外では女の子に似合わない音が聞こえるのだろう。
何分か経って、スッキリとした和美ちゃんが戻ってきた。
飴をあげると、がっつくようにになめ始め、飴は消えてなくなってしまった。
もうちょっと舐めときゃよかった・・・。
「まったく、男の子だったらまだしも、女の子になんでこんな事をやらせるのでしょーかねぇ」
「本当に日本とかけ離れた祭りだよね。三大奇祭に入ってもおかしくないのに」
「一度登録しようとしたんだって、でも無理だったみたい」
「なんで?」
「ここの地区の有力者たちがそれを取りやめさせたんだってさ。たくさんの人が来ると
その祭り自体が観光の催し物のように軽く扱われるのが嫌だからーって」
「私としてはもっとこのお祭りが有名になって沢山の人に来てほしいと思うけどね」
「僕はどっちもどっちだと思うなぁ。このまま閉ざしたままだと絶対に遠くない未来に
このお祭りはなくなっちゃう」
和美ちゃんがふんふんと首をふる。かわいい。
「でもさ、観光地化したら、確かに人は来ると思う。でも、
今のように一体感あふれて、あたたかいこんなお祭りになると思う?」
「まぁ、それは・・・」
「僕は知っている通り都会から来たんだけど、お祭りは騒がしくて、事件や乱闘なんてあたりまえ、
さらに危ないお兄さんたちがウロウロしてるんだよ!ここのお祭り会場に来た人たちくらいに!」
「ひっ」と小さな叫び声を上げる。まぁ脅かすのはこれくらいにしとかないと。
「それでも、人はいたほうがいいよね」
「でも、ありがとう」
えっ?唐突に言われても分けがわからない。