俺はどうしても彼女の顔が見たかった そのためにはその旅行雑誌が邪魔だと思った
とはいえ、こんな公共の場で見ず知らずの女性から雑誌を奪い取って引きちぎるわけにはいかない
そんなことをすれば彼女は悲しむだろうし、なにより俺は旅行雑誌に見入る彼女に惹かれていたんだから
そんな彼女と雑誌と俺の複雑な三角関係を乗せたまま、電車は次の停車駅に差し掛かった
当然ブレーキがかかるわけだけど、俺はつり革に掴まっていたからどうということもなかった
ところが、彼女は旅行雑誌に夢中だったもんだからバランスを崩しちゃったんだな そのまま俺に寄りかかってきたんだよ
彼女が体勢を立て直すのに3秒くらいかかったと思う
その間ずっと身体がくっついていたわけだけど、その時の俺の気持ちをどう表現しようか
言うまでもなく俺は童貞だし、異性の友人なんていたことがない 女性に対する免疫なんて皆無だ
にも関わらず、彼女の身体は慣性に任せて俺にどんどん密着してくる
そんな状況で彼女を見る余裕なんて精神的に無いし、むしろ「今すぐ避けたい」と思っていたけど、なんとか3秒間耐えきることができたんだ
体勢を持ち直した彼女は急いで俺から離れた 少しの間俺のことを見ていたように思うけど、俺は明後日の方向を見ていたから確かなことはわからない