ちょっと車内を見渡せば空いてる席もあったんだろうけど、べつに疲れてるわけでもないし立つことにしたんだ
立ってる人は他にもいて、俺の隣にはひとりの若くて細身の女性が旅行雑誌を読みながら立っていた 雑誌のページはスイーツの特集だったな
書いたとおり、車内は空いてるってわけじゃなかった かと言ってすごく混んでるってほどでもなかったんだ
だから彼女と俺の距離は一歩か二歩くらいはあったよ 少なくとも物理的にはね
彼女のことを俺は(甘いものの食べ歩きでもしてんだろうな~かわいいな~ぐへへ)なんて思いながらちらちらと盗み見ていたんだけど、その子は全然顔を上げないんだ それくらい雑誌に没頭していたんだな
そんな彼女の様子はいじらしくて、とても魅力的だった 俺は是非ともそのご尊顔を拝したいと思い始めたんだ
だがやはり、彼女は雑誌の抹茶スイーツに見入っている
俺はだんだんとそのスイーツ及び写真、ひいては雑誌そのものを憎く思うようになった たかが雑誌のくせに彼女を独り占めしていることが許せなかったんだ