>記者たちの質問が続いた。
>「東国新聞の安田です。第三者委員会の報告書には性暴力の詳細が記されていますが、音声データのような証拠は一切ない。証拠不十分という声もありますが?」
>「坂東テレビの北村です。介護施設側が“控訴”として提出した外部専門家チームの報告書について、どう受け止めていますか?」
>Mayumiが唇を噛み締めて答えた。
>「理解できません。そもそも第三者委員会を依頼したのは施設側です。それを否定するなんて、矛盾しています」
>別の記者が声を上げる。
>「でもですね。元判事5名の外部専門家チームは、性暴力は“でっち上げ”とまで言い切っていますよ」
>Yurikoの声が震えた。
>「私たちは嘘をついていません…こんなことで、誰が国を超えて告発しますか…?」
>問題はさらに複雑化した。報告書に名前を記載された入所者の遺族が、第三者委員会を名誉毀損で訴えると発表。これにより「第三者委員会の中立性」が改めて問われる事態となった。
>ネットは真っ二つに割れた。
>「加害者を告発した勇気を讃えるべきだ」という支持の声と、「証拠もないのに人の名誉を傷つけるのは許されない」という反発。
>だが、国民の誰もが知っていた。これが“22世紀の正義”なのだと。
>報告書に対する最終判断は、社会的世論とメディアによって決まる。裁判所も国会も、第三者委員会の結論を超えることはできない。「公的な真実」はもはや存在しない。“報告書の影響力”こそが真実を決める。
>最終的に、第三者委員会の報告書は「真実とみなすには証拠が不十分」として宙に浮いた。報告書は公開されたが、国民の半数はそれを信じず、半数は信じた。残されたのは、何も決着しないままの苦しみと費用の山だけだった。
>施設は、外部専門家チームの助言に従い、MayumiとYurikoに対して名誉毀損と営業妨害で損害賠償を求める訴訟を起こした。
>「勝てますか?」記者が最後にそう尋ねた。
>第三者委員会の代表弁護士が静かに答えた。
>「可能性は低いでしょう。証拠がないということは、彼女たちにとっても不利なんです。真実を語ったとしても、証明できなければ…敗訴です」
>フラッシュが焚かれる中、MayumiとYurikoは無言で立ち上がり、深く頭を下げた。
>拍手はなかった。静寂の中で、彼女たちは控室へと去っていった。
>それが、22世紀の日本。
>真実は委員会が決める。
>しかし、その委員会さえ、誰の味方でもなかった。