【相場の細道】植田日銀総裁と内田日銀副総裁の同床異夢
「最後に、この言葉で締め括りたいと思います。『今回はこれまでと違う(This time is different)』」(内田日銀副総裁:2024年5月27日)
内田日銀副総裁は、企画局長(2012年~17年)として、雨宮日銀前副総裁とともに、黒田第31代日銀総裁が打ち出した「大規模な量的・質的金融緩和政策」(2013年4月)や「
マイナス金利政策」(2016年1月)、「イールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)」(2016年9月)政策の企画・立案に関与してきた。
企画局長から日銀副総裁に昇格した雨宮日銀前副総裁は、財務省出身でアベノミクスでの消費増税に忖度した黒田第31代日銀総裁に抗うことは出来なかった。
同様に、企画局長から日銀副総裁に昇格した内田日銀副総裁も、岸田政権に忖度する学者出身の植田第32代日銀総裁に抗うことは出来ないのかもしれない。
1.内田日銀副総裁の反旗
2023年7月7日のインタビュー記事「金利操作修正『市場に配慮』バランス重視」で、内田日銀副総裁は、「YCCは、金融仲介機能や市場機能に配慮しつつ、いかにうまく金融緩和を継続するかという観点からバランスをとって判断していきたい」と述べた。
フォワードガイダンスを一部修正して「機動的に対応」の文言が追加されたことや、7月の「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」では、物価見通しが引き上げられる可能性があるとの新聞報道なども、YCCの許容変動幅の拡大観測を高めた。
2.植田日銀総裁の忖度と否定
2023年7月16日、植田日銀総裁は、市場で金融緩和策を修正するという観測が広がっていることに対して釘をさした。「債券市場の機能に関する私の認識は4月や6月の決定会合のときと大きく変わっていない」と述べた。18日には「持続的、安定的な2%のインフレ達成にはまだ距離がある」と述べ、YCCの修正観測を後退させた。
YCCの許容変動幅を±0.5%から±0.75%、あるいは±1.0%に拡大した場合、岸田政権の財政政策に悪い影響を与え、株価も下がることから、岸田政権へ忖度したのかもしれない。
3.植田日銀総裁のタカ派路線
2024年7月31日の日銀金融政策決定会合では、政策金利(無担保コール翌日物金利)が、これまでの「0-0.1%程度」から、「0.25%程度」に引き上げられた。
そして、植田日銀総裁は記者会見で、「0.25%への利上げでも実体経済への影響は出ない。経済のショック、景気循環で日本経済に下振れが生じた場合、0.25%では対応しづらい。2006年からの前回の利上げ局面のピークである0.5%が壁になるとは認識していない」と述べた。さらに、中立金利の下限である1%を意識した見通しを示したことで、年内に1回(+0.25%=0.50%)、来年は1-2回程度で0.75%から1.00%に向けた利上げの可能性が示唆された。
ドル円は、161.95円の高値(7/3)から141.70円(8/5)まで20.25円(▲12.5%)下落した。日経平均株価は、42426.77円の高値(7/11)から31156.12円(8/5)まで11270.65円(▲27%)下落した。
4.内田日銀副総裁のハト派路線
2024年8月7日、内田日銀副総裁は、株価や為替相場が不安定な状況で利上げは行わず、当面は現行の金融緩和を維持するとの考えを示した。
ドル円は、147.90円まで上昇し、日経平均株価も35849.77円まで上昇した。
しかし、「植田総裁と自分との考えの違いはない。経済や物価が見通しに沿って展開していくのであれば、それに応じて金融緩和の度合いを調整していくことが適切」とも述べている。