東京為替見通し=退官控えた意地の円安阻止か?米当局者の反応に要警戒
昨日の海外市場でのドル円は、6月米消費者物価指数(CPI)が予想比で下振れると、米金利の急低下とともに急ピッチで円高・ドル安が進行した。政府関係者の話として「政府・日銀が為替介入を実施した」との一部報道も伝わるなか、22時過ぎには一時157.44円まで下押し。ただ、欧州時間につけた高値から4円超の急落となったため、その後は反動から158.97円付近まで下値を切り上げる場面も見られた。ユーロドルは一時1.0900ドルまで上昇した。
本日の東京市場では中長期的な円安地合いは変わらないだろうが、昨日の介入と思われる動きの影響で積極的に円を売る動きにはなりにくいだろう。前回(4月29日・5月1日)の介入後に、イエレン米財務長官が本邦の介入について幾度も「為替介入は過剰な動きへの対処であるべき」と繰り返すなど、米国当局者がドル売り介入への拒否反応を示した。また、本邦為替当局者も「G7の国の通貨は市場で決定されるべき」との原則についても発言していた。現時点では、昨日の動きが介入だったと断定することはできないが、米国の不快感や原則を無視したと思われる介入を行ったのであれば、本日や週末などにイエレン氏を中心に米国当局者の反応が注目される。一部では今月末で神田財務官が退官することで、退官前に円安の流れを止められなかったという不名誉な記録とならないように、意地になってでもある程度の円安を修正しようとしているとの声も聞こえる。
もっとも、為替介入は短期的な短期的に円安を止めることはできても、中長期的に効果がないことは前回の介入で証明されている。ドル円は、前回は4月29日に160.17円まで上昇後に為替介入が行われたが、2カ月弱後の6月26日に同水準を回復した。ユーロ円も同様に2カ月弱後の6月24日に介入前の水準まで戻り、現状の水準は4月29日の介入水準よりも円安が進んでいる。中長期的な円安の流れを変えるのは、岸田政権が円安対策を講じない限りは難しいだろう。昨日、神田財務官が「投機が支配しているマーケットになっていると言われている」と発言したが、新NISA(少額投資非課税制度)の導入による海外株投資への円売りなどは政権が促した政策でもあることで、今後も円売りが引くこともないだろう。
また、昨日の6月の米CPIの結果を受けて、シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)グループがFF金利先物の動向に基づき算出する「フェドウオッチ」での9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げ開始確率は前日の73%台から93%弱まで上昇した。米連邦準備理事会(FRB)の利下げが徐々に為替相場に織り込まれている状況でもあり、さらにドルを押し下げるのにも限界があるだろう。また、バイデン米大統領の大統領選出馬がますます怪しくなっていることもあり、トランプ前大統領の返り咲きが濃厚になっている。トランプ氏が大統領に就任した場合は、中国を中心に関税引き上げが予想され、米国が再びインフレになるとの声が高まっていることも、ドルの下値を支えることになる。
本日は本邦からは5月の鉱工業生産・確報値と同月設備稼働率が発表されるが、両指標ともに市場を動意づけるのは難しい。アジア時間に限っては本邦当局者の動きを確認しながら、円相場中心の値動きになりそうだ。